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渚にて

作者: 山中幸盛


 このいやはての集いの場所に 

  われら ともどもに手さぐりつ

  言葉もなくて

 この潮満つる渚につどう…… 


 かくて世の終わり来たりぬ

  かくて世の終わり来たりぬ

  かくて世の終わり来たりぬ

 地軸くずれるとどろきもなく ただひそやかに

                 T・S・エリオット


 これは、イギリスの作家ネビル・シュートの名作『渚にて』の冒頭にある引用詩である。一九五九年に映画化され、グレゴリー・ペック、エバ・ガードナー、アンソニー・パーキンス等が好演している。

 北半球で核戦争が勃発した後の、放射能が刻一刻と南下して来るのを待つ、オーストラリア・メルボルン近郊での物語だ。そして最後に、人類は放射能によって死滅する。

 幸いにも賢明なる人類は、『渚にて』から八十年後の今日、どうにか核戦争だけは回避してきた。しかし、いま地球は新たなる人類滅亡の危機にさらされている。


 ついに、東海・東南海・南海連動大地震が勃発した。今は亡き山中幸盛の孫二人、従兄弟どうしが岐阜県の山奥で渓流釣りを楽しんでいる最中のことだ。山中真之介は結婚して長女が生まれたばかりの二十七歳、山中邦男は高校二年生で、二人は家族の安否確認のため携帯電話で連絡を取ろうとするが全然つながらない。カーナビのテレビも映らない地区だったので、車で三十分ほど走って飛騨市内の『道の駅』のレストランに走り込んだ。続々と入店してくる来客とともに、二人はテレビの地震報道に釘付けになった。

 NHK富山放送局から送られてくる緊急地震速報を見ながら、真之介がつぶやいた。

「とうとう、来やがったな」

「うちなんか老朽家屋だから、たぶん二階からゴソッと崩れ落ちてると思うよ」

「叔父さん叔母さんは、今日も仲良くテニスか?」

「二人でテニスコート近くの喫茶店に行っている時間だけど、兄貴は徹夜麻雀で熟睡していて埋まっちまってるかも」

「うちは市営住宅だから崩れちゃいないだろうけど、海に近いし埋め立て地だから津波や液状化が心配だ」

「奥さんと赤ちゃんは家にいるの?」

「名古屋の実家に泊まりがけで行くと言ってたけど、名古屋はあちこちで火災が起きているみたいだな」

「それに放射能も心配だね。浜岡原発の状況が全然つかめていないというのは不気味だね」

「いわんこっちゃない。福井の敦賀原発と美浜原発も二年前から冷却剤喪失事故でバタバタやってるし、愛媛の伊方原発と鹿児島の川内原発も使用済み核燃料から放射能漏れが起きているみたいだしな」

「四国も九州もダメだとなると、北海道は?」

「泊原発も十年前の地震で起きた放射能漏れがまだ完全には止まっていない。六ヶ所村の放射性廃棄物貯蔵所も、去年の断層地震で埋まってしまい、放射能がひどくてテントを張っただけで未だ手がつけられない状態だし。福島原発周辺地域以外の東北地方が東日本大震災からどうにか立ち直ったというのに、全国で甲状腺ガンの罹患率がそれまでの五十倍、野菜や魚の奇形が多くなっているというのも、原発が放射能をまき散らしているからに決まっている」

「困ったね、外国に逃げるわけにもいかないし」

「まったく、中国は二年前の内陸巨大地震で古い三カ所の原発が暴走したままだし、フランスとイギリスは自爆テロの飛行機が原発に突っ込んだおかげでメルトダウンを起こしているし、アメリカは五年前に起きた直下型大地震でイリノイ州の二カ所の原発が火の車のままだし、地震がないはずの南アフリカでも今年地震が起きて大騒動の最中だし」

「ほんとに、どこにも逃げる場所がないよね。オーストラリアに逃げたとしても時間の問題だし」

「世界は空と海でしっかりつながっているからな」

「原子力発電の是非を議論する前に、核燃料廃棄物の最終処分場問題をもっと真剣に考えるべきだったね。無害になるまで十万年もかかるというんじゃね」

「ああ、地球は生きているからな。地層は動いているんだ。絶対安全な場所なんかどこにもない」

「なんで、こんなことになったんだろ」

「臭い物に蓋だけして、誰かがやってくれるだろうなんて他人任せにせずに、俺たち自身が真剣に原発に反対すべきだった。子孫のこと、発電所現場作業員の健康のことを真剣に考えてやるべきだった。今となっては、すべて後の祭りだ」

「人間って、救いようのないバカだったんだね」

「そう、俺もクニ君も根っからのバカでエゴイストだったってことさ。清水の次郎長一家の『森の石松』だな」

「何それ?」

「バカは死ななきゃ治らない」


どうしても最後の一行が言いたくて、書きました。

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