第8話;特別な存在
子供の頃、一人の少年は、特別でありたいと、そう願っていた。
他人よりも、同級生よりも、友達よりも特殊で特別な存在でありたいと。
そうであれば、注目されるから、他人の目が自分に向くから。
でも、それは、結果的な欲でしかなく、少年が本当に欲していたものは、親からの視線。
親からの愛情。
少年の親は、とても無関心だったからだ。
両親は、自分の事だけで何時も少年の事を見てくれなかった。
だから、親の関心を得たかった。
ただそれだけの思いだった。
小学校の校舎。
リノウムの廊下とコンクリートに区切られた教室。
薄暗い教室の中、夕焼けの日の光が赤く教室の中を断片的に照らしつけて居た。
放課後もとっくに過ぎた時間で、普段ならだれも居ない時間帯であった。
だが、その教室には、二人の生徒が存在していた。
いや、訂正しよう。
教室には、一人の男子生徒と一人の女子生徒の死体が存在していた。
教室の床には、女子生徒が流した血溜りが出来ていた。
その横にうつぶせに倒れている女子生徒の遺体。
顔がだけが右を向き、左頬を床に付けた女子生徒の顔は、苦悩に歪んでいるわけでもなく・・・ただ呆然とこときれて居た。
男子生徒の右手には、血塗れのナイフが握られて居た。
返り血を浴びただろうその服は、赤く染まっている。
男子生徒は、この今の現状が許せなかった。
「はぁはぁ・・はぁはぁ」
激しい呼吸を繰り返して男子生徒は、こときれた女子生徒の姿を焼き付けようとしていた。
大好きな、いとおしい、幼馴染の同級生。
男子生徒にとって、足元に倒れている女子生徒は、そう言う存在だった。
だから、この現状が許せない。
「どうして。こんな事になった? どうして・・・」
男子生徒は、そう心の中でその言葉を繰り返していた。
こんなはずじゃなかった。
守ると誓ったのに。
男子生徒は、ギラついた目を左右に動かして、周りの状況の確認を始めた。
右手に血塗れのナイフを眺め、張り付いたように離れないナイフの柄から、右手を剥がそうと左手で指を掴む。
ガラガラ
と、唐突に教室の扉が横へと開かれた。
「まだ、教室に残っていたの?」
そう言って教室に入ってきたのは、男子生徒の担任である女教師だった。
女教師は、男子生徒に声を掛けて直ぐに彼の手元に目を移した。
「・・・・・・・・」
女教師は、男子生徒が握っている血まみれのナイフを見て息を飲み込んだ。
そして、その足元で倒れている女子生徒に目を移す。
一瞬の沈黙の後に大きな悲鳴が校舎の中に響き渡ったのだった。