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その渇望ゆえに宇宙をさまよわずにはいられない

ラディクス - 絶望から生まれた味

作者: 八角泰三

ラディクスの屋台に並ぶ。看板に掲示されたコードからメニューを読み込み、味の傾向を確認する。どうやらこの屋台は、伝統的なフレーバーが多いようだ。今日の私の欲求に、最も近い味はどれだろうかと思案する。


よほどの辺境でもない限り、ラディクスを知らない者はいないだろうし、多くの人々が一度は口にしたことがあるはずだ。


植物の根をベースに、食品成分や香料を混ぜて調整された飲料で、味や食感、栄養バランスの調整が容易なことから、食事としての用途にとどまらず、乳製品や甘味料を合わせてデザートになることや、カクテルベースとして使用されることもある。輸送中に凍結された素材を、あえて解凍せずに撹拌し、フローズンドリンクとして売り出したラディクスが起こしたムーブメントは記憶に新しい。


ところで、このラディクスが、宇宙開拓史上の事故から生まれたという事実は、あまり知られていない。


それは、ラディクスと呼ばれる惑星で起こった。大気が厚く温暖で、光合成による食糧自給が可能だったラディクスは、居住区の敷設にかかるコストが低いことで注目を集めた。一方、主要交易路からは外れており、天体間の往来や物資の補給は不便であった。


移住計画は、中間所得層向けの安価なプランとして人気を集め、応募枠は早期に埋まった。微生物による土壌調整が完了し、居住施設の建設が開始された矢先、予期せぬ事態が発生する。


巨大な天体がラディクスの近傍を通過し、直接的な接触こそなかったものの、重力的影響により軌道が変化。さらに、天体の通過による潮汐力の影響で惑星の自転速度が低下し、磁場が減衰。これにより、大気は恒星からのプラズマに晒され、失われていった。結果として、ラディクスは移住に適さない星となった。


それでも、ほとんどの応募者はラディクスへの移住を選んだ。移住プランはあくまで共同開発事業への出資という形で契約されており、プロジェクト失敗時の補償は名目上存在していたものの、現実には資金はすでに投入済みで、返還はほぼ期待できなかった。他の移住プランに乗り換えるための資金も、もはや残っていなかった。


移住者たちは訪れる未来に絶望した。外気に接することなく核シェルターにも似た閉鎖型居住施設に住み、限界まで輸送コストを抑えた栄養剤だけの生活が、この先何十年も続くのだ。


しかし事態は、予想だにしない軌道を描く。


光と大気は失われたが、地熱と改良された土壌は依然として利用可能だった。惑星入植用に設計された植物の一部は、地中の栄養素だけで根を成長させる機能を持っていた。


本来その植物たちは、実や葉などの育成を期待されていたのだが、そこに蓄えられる栄養素の多くは根が作り出している。光合成で作られる栄養素こそ得られなかったが、期待していた栄養素のほとんどは根部に蓄積されていたのだ。


更に、地中で繁殖可能な環形動物を飼育することでタンパク源が確保され、菌類の栽培によってビタミン類も得られた。


これらを撹拌し効率的に摂取する事で、自給率は劇的に向上し、輸送物資に依存するのは補いきれない微量成分に限られるようになった。


世代が交代する中で、ラディクスを離れ、他惑星へと移住する者が現れる。

彼らは新天地で屋台を出し、自らの故郷であるラディクスの料理を再現した。地域や流行によってレシピは変化し、やがてこの料理そのものが「ラディクス」と呼ばれるようになる。


かつて、惑星開拓の失敗から生まれたこの食品は、いまや数多くの文化圏で日常の味となっている。


列が進み、自分の番が来る。歴史に思いを馳せ、根と環形動物と菌類を撹拌して作る、いわゆる「元祖ラディクス」を注文した。

やむを得ず食べるしかなかったものが、時代を経て食文化として根付き、その地域の代表料理になった例は枚挙に暇がありません。

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