エピローグ 折り重ねた未来(みらい)
季節は春。
桜の舞う町の片隅――。
神代蓮は、小さな和紙工房の前で、折り鶴を指先で整えていた。
「ここ、本当に戦いの跡地だったんだよなあ」
肩越しに声をかけてきたのは、悠真。相変わらずラフな格好で、片手に紙束を抱えている。
「ったく、紙ってのは戦うためのもんじゃねえよな? ま、分析紙だけは助かったけどさ」
「……そうだな」
蓮は苦笑しながら、小さな少女に折り鶴を手渡した。
「はい。これ、君のお守りだ。どんなときも、きっと助けてくれる」
少女は目を丸くしながらも、嬉しそうに笑った。
「ありがとう、お兄ちゃん!」
少し離れたベンチでは、葵が本を片手に、時折こちらを見つめては微笑む。
「……レンは、変わったな」
「変わってないよ。ただ、守るって意味が、ちょっとだけ分かっただけさ」
紙を通して、誰かの想いを折る――
それが折神流の本質。
失ったものは大きい。
だが、それを継ぐ覚悟もまた、彼にはあった。
工房の奥からリリアが顔を出し、リックの怒声が追いかけてくる。
「お姉ちゃん! それオーダー用の紙だって言っただろ!? 勝手に風船犬作るなよ!」
「いーじゃーん! 喜んでくれるんだもん!」
「……にぎやかだな」
蓮がつぶやくと、悠真が肩をすくめた。
「世界を救った紙師たちの今がこれかよ。ま、悪くねぇか」
蓮は空を見上げる。
あの日、戦った黒折残月は今、裁判所のもとで神紙の力と引き換えに人間として生き直す道を選んだ。
失った命も、戻らないものもある。
だがそれでも、未来は折り重なってゆく。
紙は儚くも、しなやかだ。
想いを込めれば、空だって飛べる。
「さぁて――次は、何を折ろうか」
微笑んだ蓮の手元には、まっさらな白紙。
そこには、まだ何も書かれていない。
だが、それこそが――
すべての始まり。




