第五章 灼紙ノ決戦(しゃくしのけっせん)
東京・六本木の地下、かつて防空壕として作られた空間に黒折流の拠点はあった。
無数の結界と神紙による防御が張り巡らされたその地下空洞に、
神代蓮はたった一人で足を踏み入れていた。
「――折神流当主、神代蓮。推して参る」
蓮の前に現れたのは、黒折流四天王の一人――不敵に笑う参謀、烏丸 沙門。
長身に黒スーツ、片眼鏡をかけたその男は、まるで歓迎客でも迎えるように一礼してみせる。
「まさか本当に来るとは。正直、驚いたよ。忠義深い君の仲間たちは止めなかったのかい?」
「止められなかった。あいつらは信じてくれてる。それに応えるだけだ」
沙門の黒紙が舞う。形作られるのは、数十枚におよぶ紙の兵士《紙骸兵》。
「ならば、試させてもらおう。君の信念という折り目の強さをね」
■ 折神流・戦術式『折神・破迅鶴』
蓮は懐から一枚の白紙を抜くと、迷いなく折り込む。
刹那、彼の手から放たれたのは、一対の折り鶴が高速回転しながら敵陣を貫く神速の術式。
「破迅鶴――ッ!」
ズシャアアァン!
兵士たちの陣形が一瞬で崩れた。
「なるほど。噂に違わぬ紙技だ。だが、まだまだこれからだよ」
沙門の黒紙が地を覆い尽くす。
まるで液体のように這い、蓮の足を縛ると、その瞬間――
「“紙印・虚映獄”」
宙に無数の黒い鏡面が浮かび、そこから無限に増幅された紙刃が蓮を包囲する。
「この術はね、自分の影を使って敵を千切る術さ。無数の影の紙刃に、君は耐えられるかな?」
「……それはどうかな」
■ 折神流・封紙式『折神・結界ノ盾』
蓮は背後に折った一対の盾を開く。
その紙盾が、まるで神社の鳥居のように空間を結び、周囲を包み込む。
バシュン――!
無数の黒刃が盾に弾かれ、反射されて沙門自身を切り裂いた。
「がっ……は……っ! 返される、だと……」
「折り目は、相手を攻めるだけじゃない。守りもまた、神紙の本質だ」
沙門が血を吐いて倒れ、辺りに静寂が戻る――かと思われたその瞬間。
「まさか、君がここまでの力を秘めているとはな。正直、見くびっていた」
地下の石壁が裂けるようにして現れたのは、四天王筆頭――
熱血の男・砕道 仁。身の丈二メートルを超す体躯に、炎を宿した折り紙の大太刀を背負う男だった。
「よく来た、神代蓮。貴様をこの拳で潰すために、ずっと待っていた」
「拳って……紙とかけてるのか?」
「そうだが何か文句あるかッ!」
「いや、わりと好きだ」
二人の気が、瞬間にして爆ぜた。
■ 黒折流・闘紙式『砕刃ノ業・焔鬼紙』
仁の背後から炎を纏った鬼が姿を現す。
それは、百重にも折られた「紙鬼」の中でも、黒折流にしか扱えぬ禁忌の紙――
■ 折神流・奥義『折神・翔穿凰』
蓮は大気を裂くようにして、折り上げた神禽を放つ。
白銀の尾羽を翻しながら、火炎の鬼を一刀両断にした。
バゴォォンッ!
爆音とともに拠点が崩れ、仁が膝をついた。
「クハッ……やっぱり、てめぇが……次の神紙を担う男ってことか……」
「お前も……強かったよ、砕道仁。お前の拳、まっすぐで熱かった」
その瞬間、地鳴りのような声が拠点全体に響き渡った。
「それでこそ、我が息子の敵だ」
――黒折流当主、黒折 残月の登場である。




