表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

第一章 折神流、始動(しどう)

――それから十年。


かつての屋敷跡は更地となり、無機質なマンションが建っていた。

東京・練馬区。繁華街から少し離れたこの場所に、古風な瓦屋根の一軒家が存在していた。

その家こそが、今もなお折神流せっしんりゅうの本拠地だった。


「遅い……何分待たせる気よ、蓮」


玄関前に立つ少女が、腕時計を睨みながら唇を尖らせた。

切れ長の目と銀色のショートヘア。制服のスカートの下には黒いレギンス。

彼女の名は――東雲しののめ あや


折神流に属する紙師にして、神代蓮の幼なじみだ。


「悪い、ちょっと紙が言うこときかなくてな」


のんびりと玄関の障子を開けて現れたのは、18歳の青年――神代かみしろ れん

黒髪を無造作に後ろで束ね、眼差しはどこか人を見透かしたような捻くれた鋭さがある。

だがその目の奥に、幼き日の傷と強い信念が宿っているのを、彩は知っていた。


「……で、今日の任務は?」


「ああ。渋谷で折魂反応せっこんはんのうが出た。多分、黒折流こくせつりゅうの残党だ」


蓮は机に広げた紙の地図に、黒い印をつける。

異能の世界では、紙に魂を宿す力を持つ者を紙師ししと呼ぶ。

その力は流派によって異なり、折神流は“造形ぞうけい”を極め、創造に神を宿す。


一方で、黒折流は破壊と支配を信条とし、かつて多くの命を奪ってきた禁忌の流派だ。


「蓮、俺も行くぜ」


障子が開き、茶髪にピアスの青年が顔を出した。

柴坂しばさか 陽斗はると――ムードメーカーであり、蓮の相棒。戦闘能力は低いが、情報収集や分析、策の立案には長けている。


「つーかさ、また出てきたんだな、黒折流。最近増えてないか?」


「……奴らが動くときが来たってことだ」


蓮は、机の上にそっと和紙を広げた。

手をかざす。すると紙はひとりでに折れ始め、五秒後には一匹のわしが姿を現した。


蓮の得意技――

《神造・白翼ノしんぞう・はくよくのもり》。


折神流・紙神術ししんじゅつは、意志を折ることから始まる。

造形に魂を込め、そこに神を宿らせる。それが折神流の極意だ。


「出発する。彩、陽斗、準備はいいな?」


「ああ、いつでも」

「こっちは万端」


蓮は白い鷲を指先にとまらせると、玄関の扉を開いた。

夜の街に吹く風が、三人の紙師を迎えるように流れ込む。


黒折流との闘いが、再び始まろうとしていた。


◆  ◆  ◆


渋谷・道玄坂のビル群。

その一角に、無人の廃ビルがあった。表向きは空室、しかし内部には強力な折魂の気配が満ちていた。


「……いたな」


蓮が手の平で和紙を裂く。

その瞬間、紙は無数の刃となり、空間を切り裂いた。


「おいでなすったか、折神流の坊主どもがよォ」


闇の中から姿を現したのは、顔の左半分を紙で覆った男。

名を――蔵王ざおう 錬司れんじ。黒折流の中堅構成員。


「てめぇらの紙は甘いんだよ。神を宿す? 笑わせんな。こっちは喰らわせる紙しか折っちゃいねえ」


錬司が紙を放る。それは空中で変形し、おおかみの姿をとった。


黒折流・技――

《呪折・血喰狼じゅせつ・ちしゅうろう


「来るぞ!」


蓮が叫ぶ。陽斗が彩をかばい、蓮が前に出る。


「――折神流・技、

《神造・封獣ノしんぞう・ふうじゅうのたて》!!」


手の中の紙が変形し、巨大な狛犬こまいぬが出現。狼の牙を受け止め、火花を散らす。


「やるじゃねえか……だがな、俺の紙はまだ終わっちゃいねえ!!」


錬司が叫ぶ。紙の狼が裂け、内から無数の蛇が飛び出す。


蓮は静かに目を閉じた。


「――行け、《神造・天穿ノてんせんのつる》」


折られた紙が一瞬で“鶴”となり、空気を切り裂いて突き刺さる。

その一撃が、錬司の技の核を貫いた。


「ぐっ……!」


爆ぜる折魂。辺りが静寂に包まれる。


蓮は、紙を静かに畳みながら言った。


「紙は、破壊じゃない。

想いを折るものだ」


紙が舞う。風が吹く。


これが――折神流、始動の刻であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ