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第3話 これは……使える!

 目の前の光景が信じられなかった。

 リーダー格のゴブリンがいた場所には、不自然なほど綺麗に切り取られた円形の穴が口を開けている。穴の底からもう声は聞こえてこない。


 残された二匹のゴブリンは目の前で起きた超常現象に完全に混乱していた。「ギィ?」と間の抜けた声を上げ、キョロキョロと辺りを見回している。

 その様子を見て俺の頭はようやく冷静さを取り戻し始めた。


 ……今の、は。

 俺のスキル、【配置換え(チェンジ)】の力だ。

 モンスターの足下と罠の位置を入れ替えた。

 まさか本当にできるとは。

 ゴブリンたちの混乱はまだ続いていた。好機だった。


 俺はもう一度スキルに意識を集中した。

 視界に再び青いハイライトが灯る。

 右側にいる「ゴブリンB」、そしてそのゴブリンのすぐ近く、壁際から伸びている「蔦の罠」。

 いけるか?

 俺はゴブリンBの足下と蔦の罠をイメージし、心の中で念じた。


『入れ替えろ』


 直後、ゴブリンBが立っていた地面から無数の蔦が勢いよく伸びた。まるで意思を持っているかのように、蔦はゴブリンの足や胴体に絡みつき、あっという間に身動きを封じてしまう。

 ゴブリンはもがくが、蔦はますます強く食い込むだけだった。これで一匹無力化。

 残るは一体。

 最後のゴブリンは仲間たちの異変にようやく気づき、棍棒を振り上げてこちらに突進してきた。


 まずい。

 そう思ったが、俺はもう焦らなかった。

 突進してくる「ゴブリンC」の進路上、少し先にハイライトされている「ぬかるみの罠」を確認した。

 よし、これだ。


『入れ替えろ』


 三度目の発動。

 ゴブリンが踏み込もうとした足元の地面が突如として泥濘ぬかるみに変わった。勢いをつけていたゴブリンは見事にバランスを崩し、顔から派手に泥の中へ突っ込んだ。

 情けない悲鳴を上げ、ゴブリンは泥の中でもがいている。もはや脅威ではない。


 ……勝った。

 いや、戦っていない。

 ただ、そこに「あった」ものを「あった」場所に移動させただけだ。

 それだけでさっきまで俺を殺そうとしていたモンスターたちが、いとも簡単に無力化されてしまった。


 これは……。

 これは使える。


 戦闘能力ゼロの俺にとって、これ以上の「武器」はないじゃないか。

 攻撃魔法? 豪快な剣技? そんなもの必要ない。

 必要なのは、どこに何があるかを見極める「観察眼」と、どう配置すれば最も効果的かを考える「思考力」。

 それなら俺にもできる。いや、営業マンとして二十年間、状況分析と戦略立案を繰り返してきた俺の得意分野だった。


「は、はは……ははは」


 笑いが込み上げてきた。

 絶望の淵で掴んだ一本の腐った蜘蛛の糸。そう思っていたこのスキルは、とんでもない可能性を秘めた天からの命綱だったのかもしれない。


 「クソスキル」だなんてとんでもない。

 これは俺だけの、俺にしか使えない「神スキル」だ。


 俺は泥の中でもがいているゴブリンにゆっくりと近づいた。

 落ちていた手頃な石を拾い上げ、それを強く握りしめた。

 さっきまでの恐怖はもうなかった。

 俺の心には確かな希望の光が灯っていた。

 リストラおっさんの逆転劇。その第一歩を今、この手で刻んでやる。




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