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雨の日の晴  作者: 宿木
9/22

雨の先は(1)

今日晴れ、快晴とまではいかないけれど、青い空と、太陽は顔を出している。


私は学校から家に向かっている。


晴美は部活があるらしい。


私は写真部だけど、今日は休み。


私たちは中学三年生だ。


まだ夏休み前ではあるけれど、少し、自分の先のこと、進路について考えなければならない。


私は未来のことを考えるのが少し苦手だ。


細かく言えば、すぐ近くの未来を考えるのが、少し怖いのだ。


遠くの未来であれば、不思議と想像は膨らむし、ちょっとの楽しさすら感じる。


先のこと過ぎて、「どうでもいいこと」と勝手に認識しているのだろう。


直近の未来は、なんだか怖い。


実際にそうなるわけではないのかもしれないが、遠い未来より、簡単に想像できる。


簡単に、良くない方向の未来を、考えてしまうのだ。


私は今、「進路」と聞くと、とてもこわくなる。


すでに良くない未来を想像しているのだ。


言うならば、私にとって良くない未来。


ああ…言葉にもしたくない。


中学生の進路、と言えば、大体が卒業後の学校を選択する。


それは、私と晴美も。


私と晴美が、その先で別れる事になるかもしれないのだ。


家自体は近い。


会おうと思えば、いつでも会える。


しかし、会う頻度は極端に減るだろう。


小学校の同級生も、家が近いからまた会うかもしれないぐらいには思っていた。


しかし、全く会うことは無い。


会ったとしても、見かける程度。


会話も、当時の感覚というのは薄れ、どこか距離のある接し方だ。


そんなことが、私と晴美にも起こるかも、なんて、考えたくもない。


まだまだ時間はある。


しかし、寂しい。


ちょっと青い気分になっている。


ちょうどいい風が、それをもっと引き立てた。


もう家が見えてきた。


目の前には、いつもの小さな坂道。


(この坂を登ることも、少なくなるのかな)


私はそのまま、家に入る。


「ただいまー」


(ちょっと先のことだし、考えても仕方ないか。)


「おかえりー」


たまにこんな風に流すことのできる私。


自分でもびっくりする。


しかし、私の心に降った雨は、余韻を残していった。


「雨音おかえり、お菓子買ったから、テーブルにあるよ。」


「ありがとう」


私は、制服から着替え、リビングに向かった。


「あれ、なんかあった?雨音」


母がそんなことを言う。


「どうして?」


「いや、なんとなく。」


母は、こういう所にすごく敏感で、鋭い。


私は静かな方だし、気持ちの変化とか、分かりにくいだろう。


しかし母は、そんな私の変化に気づいてくれる。


「なんか帰り道、寂しいことを考えちゃって。」


「そうなんだ。」


「まだまだ先の事なんだけど、高校が、晴美と違ったら嫌だなって。」


「そうね、晴美ちゃん、すごくいい子。あんな子中々いないと思うな。」


そう、すごくいい子。


私は、そんな子と幼い頃から仲がいい。


自慢できるほどだ。


「聞いてみたら?どこの高校行くの?とか」


「うん、でも晴美が行くからっていう理由で高校を決めるのは…すごくいいんだけどそれは私が納得しない。」


「そうなの?まぁ、そんな風に言うんだろうなとは思っていたけど。」


晴美と同じ高校がいい、そうなんだけど、それは私の決めた道になるんだろうか。


行きたい所がないなら、それでもいいだろう。


現に私は、行きたいと思うところは決まっていない。


しかしいずれ、行きたい所ができたとき、それを捨てるのは、ちがう気がする。


それ以上、母は聞いてこない。


(まぁ、それが心地いいんだけど。)


私の心には、小さな水溜まりがまだある。


そして、朝を迎えた。

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