雨の先は(1)
今日晴れ、快晴とまではいかないけれど、青い空と、太陽は顔を出している。
私は学校から家に向かっている。
晴美は部活があるらしい。
私は写真部だけど、今日は休み。
私たちは中学三年生だ。
まだ夏休み前ではあるけれど、少し、自分の先のこと、進路について考えなければならない。
私は未来のことを考えるのが少し苦手だ。
細かく言えば、すぐ近くの未来を考えるのが、少し怖いのだ。
遠くの未来であれば、不思議と想像は膨らむし、ちょっとの楽しさすら感じる。
先のこと過ぎて、「どうでもいいこと」と勝手に認識しているのだろう。
直近の未来は、なんだか怖い。
実際にそうなるわけではないのかもしれないが、遠い未来より、簡単に想像できる。
簡単に、良くない方向の未来を、考えてしまうのだ。
私は今、「進路」と聞くと、とてもこわくなる。
すでに良くない未来を想像しているのだ。
言うならば、私にとって良くない未来。
ああ…言葉にもしたくない。
中学生の進路、と言えば、大体が卒業後の学校を選択する。
それは、私と晴美も。
私と晴美が、その先で別れる事になるかもしれないのだ。
家自体は近い。
会おうと思えば、いつでも会える。
しかし、会う頻度は極端に減るだろう。
小学校の同級生も、家が近いからまた会うかもしれないぐらいには思っていた。
しかし、全く会うことは無い。
会ったとしても、見かける程度。
会話も、当時の感覚というのは薄れ、どこか距離のある接し方だ。
そんなことが、私と晴美にも起こるかも、なんて、考えたくもない。
まだまだ時間はある。
しかし、寂しい。
ちょっと青い気分になっている。
ちょうどいい風が、それをもっと引き立てた。
もう家が見えてきた。
目の前には、いつもの小さな坂道。
(この坂を登ることも、少なくなるのかな)
私はそのまま、家に入る。
「ただいまー」
(ちょっと先のことだし、考えても仕方ないか。)
「おかえりー」
たまにこんな風に流すことのできる私。
自分でもびっくりする。
しかし、私の心に降った雨は、余韻を残していった。
「雨音おかえり、お菓子買ったから、テーブルにあるよ。」
「ありがとう」
私は、制服から着替え、リビングに向かった。
「あれ、なんかあった?雨音」
母がそんなことを言う。
「どうして?」
「いや、なんとなく。」
母は、こういう所にすごく敏感で、鋭い。
私は静かな方だし、気持ちの変化とか、分かりにくいだろう。
しかし母は、そんな私の変化に気づいてくれる。
「なんか帰り道、寂しいことを考えちゃって。」
「そうなんだ。」
「まだまだ先の事なんだけど、高校が、晴美と違ったら嫌だなって。」
「そうね、晴美ちゃん、すごくいい子。あんな子中々いないと思うな。」
そう、すごくいい子。
私は、そんな子と幼い頃から仲がいい。
自慢できるほどだ。
「聞いてみたら?どこの高校行くの?とか」
「うん、でも晴美が行くからっていう理由で高校を決めるのは…すごくいいんだけどそれは私が納得しない。」
「そうなの?まぁ、そんな風に言うんだろうなとは思っていたけど。」
晴美と同じ高校がいい、そうなんだけど、それは私の決めた道になるんだろうか。
行きたい所がないなら、それでもいいだろう。
現に私は、行きたいと思うところは決まっていない。
しかしいずれ、行きたい所ができたとき、それを捨てるのは、ちがう気がする。
それ以上、母は聞いてこない。
(まぁ、それが心地いいんだけど。)
私の心には、小さな水溜まりがまだある。
そして、朝を迎えた。