すずしい風
「じゃあ、一旦終わりましょー」
「さようならー」
「さようなら」と言いつつも、この後も残らなければならない。
二学期に入って、1週間ほど。
秋にある、音楽会の練習が、今日から始まった。
「じゃあパートリーダーさん、ラジカセの場所案内するんで、私についてきてくださーい」
私はそんなに高い声を持っていない。
アルトというパートだ。去年まで同様、歌の練習、歌に関しては、特別驚くことも無い。
歌に関しては。
今、先生について行った、各パートのリーダー3人。
そのうち、ソプラノのリーダーに、藤田さんがなった。
先週の授業で決まったのだが、私はあまり話を聞いていなかったので、いまさっき知って、驚いた。
元々、前に出るような子じゃない。相当な挑戦だろう。
頑張ってほしいし、パートは違うけど、手伝えることがあれば、手伝いたい。
先生たちが戻ってきた。
「皆さん聞いてください、キーボードが音楽室にあるみたいで、必要なら取りに行ってください。はい、じゃあ練習始めー」
アルトのリーダーは、前田さんという子、そこまでハキハキとしているわけじゃないけど、不思議と、彼女の言葉はすんなりと、耳が受け付ける。
「じゃあまずは、1番だけ歌おうか、練習の最後の方ちょろっと2番入る感じでー」
…♪♪♪
機械を通した音楽。
どこかラジオのようにも聞こえる。
このイントロが、後々、私に染み込んでいくのだろう。
歌声が混ざることのないように、練習する場所は、パートによって違う。
(藤田さん大丈夫かな…)
私が思うより、勇気を持って行動出来る人だ。
余計な心配だろうか。
その後1時間ほど練習が続き、解散となった。
その後も、毎日練習があった。
もう歌詞が、頭に染み付いてきた頃。
「いい感じになってきたねーちょっとソプラノと合わせてみようか」
ソプラノのところへ移動する。
「あれ?藤田さんは?」
「今トイレー」
「アルト上手だよねー授業でも褒められてるし」
「ありがとう」
「ごめんおまたせー」
「あっ藤田さん!今からソプラノと合わせたいんだけど」
「いいよ、みんなは、それでいいかな?」
「うん、いいよー」
みんな、協力的で、藤田さんも、上手くできているみたいだ。
その日の練習が終わった。
号令とかもなく、それぞれが解散する。
役割のある人は、残って話し合いをしているそうだ。
もちろん、藤田さんも。
晴美は役割があるわけではないけれど、残って作業をするらしい。
今日は1人だ。
段々と、時間と、空の明るさが合うようになってきた。
爽やかさとかは無いけど、涼しい風が吹く。
体感として、気持ちのいい風だ。
「…よねー」
同じクラスの子だ。たしか、ソプラノにいた…
「まさか藤田さんがリーダーやるとは思わなかったなー」
「たしかに(笑)」
なんだか、嫌な予感がする。
人の会話から感じる予感。それは、だいたい当たっている。
「リーダーは面倒くさかったし、やってくれるのは嬉しいけど、声がちょっと小さいんだよなー」
「うん、聞こえないときもあるし、そんな声が出てる方じゃないのに、「お腹から声だしてみて」とか、ちょっとなー。まずは自分から出しなよって」
「ははは」
藤田さんへの、不満だった。
たしかに、リーダーとか、注目されることは、あまりやらない子だから、こういうことはあるだろう。
でも、彼女からしてみれば、大きな挑戦だ。
それを笑われているのは、嫌だ。
ちょうど彼女たちは、前を歩いていたので、話しかけることにした。
「おつかれー」
「ああ、雨音ちゃん、おつかれー」
「藤田さん、リーダーどうかな?」
「藤田さん?ああ、仲良いよね」
「藤田さんはね…」




