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雨の日の晴  作者: 宿木
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奥は晴れ(2)

「あ!」


女性がそう声を出した。


もう私は、この人が誰なのか、確信がついている。


あちらもそうなのだろう。


「こないだの人ですよね、貰ったチケットで来ちゃいました。」


「そうですー!ありがとうございます!あの時は本当に助かりました」


「雨音ちゃんお待たせー」


「あ、友達も一緒に来てもらってて」


「あー!ありがとうございます!ぜひゆっくりしてってください!」


女性と私たちは、一旦別れた。


「あー気持ちよかったーこんな明るいのにお風呂って新鮮だなー」


「そうだね、私もあんまりないかも」


まだお昼には、微妙な時間。


「お昼どうする?早めに食べちゃう?私はあんまお腹すいてないなー」


「うーん、マンガもあるみたいだし、少し時間潰そうか」


「了解ー」


沢山マンガがある。


人気なのから、少しマイナーなやつも。


マンガを読み進めていると、先程お風呂の場所を譲ることになったおばさんがこちらへ歩いてくる。


(また絡まれたらいやだな…)


移動することにした。


マンガを戻し、先程私がいた所に目をやる。


予感はしていたが、あのおばさんが座っていた。


(移動してよかった…)


私はたまに知らない人から絡まれる事がある。


だいたい、怒られている事が多い。


「雨音ちゃーんそろそろご飯いかない?」


「そうだね」


ちょうどお昼の時間、食堂には、人が集まっている。


何とか席を見つけ、座ることができた。


「なににしようかなー」


結構なんでもある。


種類は、宵音ちゃんのおばあちゃんのお店の方が多いけど。


(そう思うと、ほぼ一人でやってるおばあちゃんはすごいな)


備え付けのタブレットで、私はうどん、晴美は唐揚げ定食を頼んだ。


晴美は、本棚から持ってきた漫画を読んでいる。


「あれ、漫画って持ってきていいの?」


「館内ならどこ持ってってもいいらしいよー張り紙があった」


「そうなんだ、いいね」


(私も持ってこれば良かったな…移動と同時に、読むのをやめてしまったし)


「ねぇ、ちょっと、私いつもそこで食べてるんだけど」


嫌な予感がする、私たちに話しかけているのだろうか。


「ねぇ!」


(はぁ…なんなんだいったい)

案の定、奴だった。


「なんですか?」


私が声を出すまで、晴美は話しかけられていることに気づいていなかったようだ。


「私の場所って言ってんの」


「いや、私たちの場所ですけど」


「いいから!」


まただ、さっきも「いいから!」と言っていたが、何がいいのだろう。私はこの人に何かしたのだろうか。


「あの、さっきも…」


「どうかなさいましたか?」


(あ、さっきの)


チケットをくれた女性だ。


このおばさんの大声と、この場が醸し出す雰囲気を察して、来てくれたのだろう。


「この子たちがね、私が席にいたのに取ったの!」


「え?」


反射的に声が出た。


「私が少し席を外した隙に入り込んで」


呆れて、声が出ない。


「お客様、お言葉ですが、こちらのお2人が先に席にいらしたように私には見えましたが…」


「じゃあ、ちゃんと見えてないのよ、しっかりみた上で物は言いなさい」


(なんなんだコイツは)


奥底の言葉が、汚れていくのを感じる。


どうにか、口より先には出ないようにしなくては。


「そうですね、仰るとおり、しっかりと見えていなかったかも知れません」


(え…)


そんな…悔しくて泣きそうだ。味方がいなくなってしまった気分。


「ですので、あちらにある、防犯カメラ。確認いたしますね」


「いや、そんな事しなくても、私が先だって言ってるんだから」


「しっかりと見るものは見て、対応させていただきますので」


「やっぱいいわ、その席は譲る」


「ありがとうございます」


「譲るとかじゃないですよね?」この言葉が、喉を通ろうとした。


言いたくても、言わなくていいことがある。それが実践できた。


おばさんは、どこかへ行ってしまった。


「ありがとうございます、さっきお風呂でも絡まれて…何かした覚えはないんですけど」


「いえいえ、あのお客さんは、こないだもああいうことしていて、こちら側では警戒していたので」


小声でそう教えてくれた。


あのおばさんは、従業員に見つかっていないだけで、ああいうことを繰り返している可能性があること、次見つかれば出禁になること、これらも小声で教えてくれた。


「今度は助けてもらったねー」


晴美がそう言った


「そうだね、本当、ありがとうございました、私一人じゃ、解決できてなかったです」


「あははー、まあ出来ることはお互いにですよねーでは、楽しんでください!」


そう言って、またどこかへ行ってしまった。


「かっこよかったねー、大人って感じがした」


「そうだね、あんなにはっきり言葉にして、落ち着いててすごい」


ご飯も食べ終えて、時間は13時過ぎ。


私たちは、最後にお風呂だけ入って帰ることにした。


(あの人に会えないかな…)


結局見つけることが出来ず、お風呂屋さんを後にした。


「また来ます!」ぐらいは、伝えたかった。


「お風呂屋さん最高だね!めちゃくちゃくつろげた」


「そうだね、また来たい」


「うん!また来よう!」


15時を過ぎただろうか、空は、もう夕方を着ている。


心做しか、最近、日の入りが早くなった気がする。


また一つ、季節が去っていく、いや、私たちが、夏から去っていくのだろうか。

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