灯火の余韻(2)
自販機でお茶を買ってきて、ベンチに座って話すことにした。
「あのね、私さ、田畑君が好きだったんだ」
「うん」
それは、よく知っている。
自分から、この前の夏祭りに誘った。
控えめな藤田さんが、勇気をだしてまで、誘ったのだ。
「この前、一緒に、夏祭りも行ってさ、その後も、展覧会行ったり、映画もみに行った」
そこまでは知らなかった。
「ついこないだだよ、映画を見終わったあと、私、私がさ、「好きって」田畑くんに言ったんだー」
自身の膝を見つめる目からは、涙が滴っている。
「その時は、田畑くんも、「好きって」言ってくれて、すごく嬉しかった。今みたいに、涙が出るほど」
同じ涙だけど、同じではなかったのだろう。
「でもさ、気づかれちゃったんだよねーホント、これも今みたいに」
「気づかれちゃった?」
「うん、お母さんに気づかれちゃって、話したんだ、田畑くんとのこと。そしたら…」
「そしたらさ…」
中々、言葉が詰まって出てこない。そう、言葉にせずとも伝わってくる。
「受験生だから、そういうのは、今はやめなさいって。あと少しで、合格が見えてくるんだから、我慢しなさいって」
かなり、早足で、この言葉を口にした。
「本当に辛かった…自分から別れようって言うのは。なんでこんなことをしなくちゃいけないんだろうって。なんで自分から好きを手放さなくちゃいけないんだろうって。」
「田畑くんは優しいからさ、「分かった」って言ってくれたんだ。あと、好きって言ってくれて嬉しかったって言ってくれたし、会えてよかったって、他にも嬉しくなる言葉をくれたなぁ」
一気に涙が増えた。
雨であるなら、大雨だ。
少し落ち着いてきただろうか、目を擦って、こちらを向いて、藤田さんはこう言った。
「今しか出来ない恋も、経験もあるのにね」
「…そうだね」
どこかで、聞いたような言葉。
その時とは明らかに違って、耳に響いているのが、はっきりと分かる。
「ありがとう、聞いてくれて、本当にすっきり?っていか軽くなった。」
私の好きな、控えめで、感情が透けて見える笑顔。
その片鱗が、彼女からは見えた。
「じゃあねーまた学校で!ありがとう!」
「うん!気をつけてねー」
話の出来事は、ちょうど1週間ほど前らしい。
私が迷子になる、少し前だ。
この間あったころは、どこかはつらつとしていた。
それも、気持ちを隠すためだったのだろうか。
私には恋心を抱く相手がいないけど、「好きを自分から手放す」この言葉には、共感したし、聞くだけで、痛みを感じた。
それに、彼女の場合は、自分から掴んだ、「好き」であり、なにより、大切であっただろう。
「ただいまー」
「おかえりー遅かったね?」
時間は、22時を迎えようとしていた。
「うん、友達と話してて」
「いいね、ご飯あるよ」
「ありがとう」
あたためた夕食を持ってきた。
今日は白米と味噌汁と、煮物。あとはサラダだ。
(……やっぱり、可哀想なんだよな…私が何か出来ることじゃないんだろうけど)
「お母さん」
「なに?」
「…ときには、好きなことを手放さないといけないことがあるのかな?」
「んー、そうね、ないことはないんじゃないかな」
「そっか」
「まあ、そういうことになるなら、かなり重いものを天秤にかけるだろうなー」
「うん」
「だって好きなことだよ?もう片方も相当重くないと、私だったら…うーん、悩むかな」
お母さんにしては、歯切れが悪い。
「難しいね、まあ、もしそうなったら、相談してよ」
「分かった、ありがとう」
鮮やかな夜だった。色濃い花火は、夜闇に、余韻を残していった。




