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雨の日の晴  作者: 宿木
8/21

雨の降らない曇り空

今日はくもり。なんだかどんよりとした。


今日もいつものように、晴美と学校へ向かう。


「いつものように」ではあるが、こんないつもがあることは、とっても貴重で、幸せな事だ。


なんて、欲のなさそうなことを考える。


最近読んだ、日常を描いた短編小説に、影響されているのだ。


「なんだか嫌な天気だねー」


晴美が、真顔でそんなことを言う。


「そうだね、私は、雨は好きだけどこういうどんよりした天気はなんだか…」


中途半端な答えだ。今の空のような。


私はこういう重い空気を(まと)う天気も、雨が降ればそこまで嫌ではなくなる。


雨が降りそうで降らない、中途半端な天気が、少し苦手なのだ。


「晴れたりしないかなー曇り空から晴れるとき、空から光が差すの、好きなんだー」


薄明光線(はくめいこうせん)のことだろう。


「あれ綺麗だよね、私はその前に雨も降っていたら、なおさら綺麗に見える気がするな。雨水が光を反射するのか、キラキラ見える。」


「たしかにー!雨音ちゃんって、周りをよく見ているよね」


「そうかな、そんな自信はないや」


(こないだは周りを見ていなくて、ちょっと大変だったし、)


白が多めのノートと、文字で埋められた黒板が、頭をよぎる。


「私はよく見ていると思うよ!空から光が差すとき、直前に雨が降っていた方が綺麗、なんて、私はあの光に気が取られていて、気がつかなかったなー」


(なんだか恥ずかしいというか、照れくさいというか、)


私は何故か焦るように


「あの光、薄明光線って言うんだよ」


「へー!そうなんだ!雨音ちゃん物知りだよね」


「ありがとう、天気に関することぐらいだけど」


私は今、嬉しいのだろう。今、鏡を一番みたくない、絶対に真っ赤な顔をしている。


「雨音ちゃんなんだか顔が赤いね、太陽みたい。」


「今日、本物の太陽はお休みみたいだけど。」


「じゃあ雨音ちゃんが今日の太陽だね!」


「なんだそれ」


私は笑い混じりにそう言った。


「やっぱりいい顔だねー」


私は今、顔が赤いらしい。


まるで太陽のように。


別にいい事をしたわけでもないけど、私にとってのいつもの太陽は、褒めてくれる。


「今日は私が太陽か」


「そうだよ、よろしくね!太陽!」


「ははは」


「いつもありがとう晴美」


「ん?どうした?急に」


「なんとなく」


「ふーん。いつもありがとう!雨音ちゃん!」


(やっぱりこないだの本に影響されているのかな)


いや、本心だ。


あの本を読んでいなくても、この言葉を今みたいに、私は恥ずかしさ混じりに言っただろう。


私の太陽はいつも晴美だ。


なんなら今日も私にとっての太陽と言っても申し分ない。


でも、晴美が私を太陽と言ってくれたのだから、今日だけは、今日一日は、太陽役でいよう。


「私の太陽はいつも晴美だよ」そんなことを、いつかは、恥ずかしがらずに言ってみたい。


晴美が私に言ってくれたように。


私と晴美は学校へ向かう。


今日はくもり。


私の気分は快晴。優しい晴れ模様だ。


たまには、雲の下に太陽があってもいいだろう。


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