午前、雲にのって
今日は、曇り。
分厚い雲が、こちらに身をまかせるように、体重をかけている。
時間は、10時頃。
本来なら、明るいはずの外の世界。
家の中では、早くも電気が必要になるほどだ。
(どうせなら、雨が降ってくれたらいいのに)
ただただ暗くて、分厚い雲。
夏を引きずる蝉の声が、微妙に、不気味な感じを演出している。
スマホで、降水確率を見てみる。
この後、日付が変わるまで、確率は一律で20%
この調子だと、降りそうにない。
「はぁー」
まもなく、この長い夏休みが終わる。その後に続く、やるべきこと。
今日の天気の憂鬱を、ため息に混ぜこんだ。
テレビを前に、寝転がる。
暇になれば、よくこうする。
庭には、とりあえず雨は降らないだろう、ということで干した洗濯もの。
お昼まで時間はある。
暇なので、散歩にでも行くことにした。
財布と、スマホ、それと、もしかしたらという心配と、期待で、傘を持って外へ出る。
「いってきまーす」
(突然出てきたけど、どこ行こうかな)
目的地なんて、決めてない。
まあ散歩なのだから、近所を散策する程度いいだろう。
(あっ)
居酒屋の角を曲がったところで、私はあるものを見つけた。
茶色と白の、上手く混ざる猫だ。
こちらをじっと見た後、歩き出した。
その間、私も何故か、足を止めていた。
(どこ行くんだろ…)
刺激しないよう、遠巻きについて行ってみる。
急に止まっては、毛繕いをしたり。
道端の、死にかけの蝉で遊んだり、その様子は、まさに猫。自由そのものだった。
この猫の行く道は、不思議と信号がないので、ついて行きやすい。
そう気づいた頃には、少し遠くまで来ていた。
(ここは…)
私の中学校の学区内ではない。
多分、別の中学の学区。
時間は…11時過ぎ。
「あっ」
私の追っていた猫は、一軒家の敷地内へと入ってしまい、姿が見えなくなってしまった。
仕方ないので、帰ることにした。
(自由な猫だったな)
行きたいところへ行って、やりたいことを、ところ構わず行う。
(ん?…あれ?どこから来たっけ…)
ここがどこなのか、どの道を行けばいいのか、分からない。
幸い、スマホがあるので、地図を見ながら帰ることにした。
(んー、こっち?)
私の来たことのない土地。
せめて、見た事のある場所へ出られたら…
地図を頼りに、家に向かう。
スマホの示す経路は、右へ行ったり、左へ行ったり、何故かとある地点を1周する経路になっていたり、複雑だ。
この重たい雲と、蝉の声。いよいよ、本格的に不気味だと感じる。
(コンビニだ!)
とりあえず立ち寄って、飲み物を買おう。
「いらっしゃいませー」
(とりあえず、お茶かな…ご飯は…うーん、)
「あれ?雨音ちゃん?」
「え?」
「やっぱり!良かったー間違ってなくて!」
「藤田さん?どうしてここに?」
「それは、私も思うこと。ここ、ちょっと遠いでしょ?」
先程の出来事を、彼女に話した。
「あはは!自由な猫って、今の雨音ちゃんも相当自由だけどね!」
それも、そうか。
暇だからという理由で家を出て、見つけた猫を勝手に追いかけて、迷子になった。
「わかった、学校までだったら分かるから、一緒に行こう」
「ありがとう!本当に助かる」
お茶を買って、コンビニを後にする。
藤田さんは、自転車で来ていたようだ。
「今日ねー、ちょっと遠くまで、自転車で行ってたんだ。」
「そうなの?」
「うん、なんか、遠くまで行きたくなっちゃって、朝から。」
「ちょっと分かるかも、私もこないだ、そんなことしてた」
「いいよねー、何も考えなくて良くなるっていうか、見たことない土地だから、目の前のことに頭を支配されるっていうか。」
「そうそう!上手だね、言葉にするの」
「ありがとう」
だんだん、私の普段身を置く土地に近づいているのが、感覚的に分かる。
「あっ、ここからならもう帰れそう」
「そう?じゃあ、私はここで」
「うん、本当にありがとう。また、学校でね」
「うん!気をつけてねー」
少し歩いて、いつもの坂までやってきた。
(帰ってきたー)
「安堵」が私を一気につつむ。
「ただいまーお腹すいたー」
時間は、12時過ぎ。お昼時だ。
重々しい雲がもたらした天気。
この地に寄りかかるような雲。
一時、この不気味な雲に潰されそうだったけど、私には光が差し込んだ。
(改めて、今度藤田さんにお礼を言おう。)
今日のお昼、何を食べようか。




