贈り雨
今日は雨。久し降りとでも言おうか。
ここのところ、ずっと太陽が空を占めていて、私としては、この曇り空と、雨が恋しかった。
「おはよう」
「おはよう。なんだか機嫌がいいね…ああ、雨か」
「うん」
いつもと変わらない「おはよう」のつもりだったが、どうやらご機嫌だと取られたようだ。
(やっぱり、お母さんは私の気持ちによく気がつくな)
「私もう行くねー」
「うん、気をつけてね」
「ありがとう」
朝8時頃。
雨音が響くリビングに、私一人になった。
いつものように、白米と、インスタントの味噌汁を用意する。
ただ朝ごはんを用意しただけ。
この当たり前を、雨音は、褒めてくれる。
屋根に弾ける音が、私には拍手に聞こえてくるのだ。
「今日は、1日すぐれない天気となるでしょう」
私の1日が始まって数十分。
早くも、いい1日になることが確定した。
今日は、なにをしようか。
雨の中、駄菓子屋さんにでも行こう。
晴美は、まだおばあちゃんの家だったはず。
私が帰ってくる日に、ちょうど、おばあちゃんの家に行くと行っていた。
私は洗い物をして、軽く身なりを整えた。
「いってきまー…」
(そうだ、お土産)
駄菓子屋さんのおばあちゃんに買ったんだった。
「いってきまーす」
今度こそ、家を出る。
誰も居ないけど、何となく、「いってきます」と、言ってみる。
私の、お気に入りの、だんだん馴染んできた傘。
ポツポツポツ
(いい音)
傘に弾ける、雨の音。
今日の雨は、私の好きな、ちょうどいい雨。
傘が必要となる強さだ。
雨の日、同じ町だけれど、晴れの日とは、違う景観になる。
真白の天気に、針のような雨粒のベールがかかる。
「おはようございまーす」
「雨音ちゃん!久しぶり、よく来たねぇ」
「久しぶり。おばあちゃん、これ、お土産持ってきたよ」
「あらーありがとう。いただくねぇ。今年は、どこ行ってきたの?」
「お母さんの方のおばあちゃん家行ってきた」
「いいねぇ。ここにも一昨日くらいまで、孫が来てたよ」
「ああ、あらたくん?」
「そうそう、もう5年生になって、大きくなってたよ」
「えーもう5年生。早いね」
こないだ会ったときは、2年生ぐらいだったかな…
おばあちゃんには、あらたくんという孫がいる。
夏休みにここへ来ると、たまに会うことがある。
「おばあちゃん、これ買うよ」
「はい、ありがとう。256円ね」
今日も、300円ぐらいで、お菓子を買う。
「じゃあねーまた来るね」
「雨だから気をつけてねー」
「ありがとう」
駄菓子屋さんの屋根から、雨の粒がポタポタと落ちる。
よくここで、傘の上に落ちるのを楽しんでいた。
今日もさりげなく、その下を通ってみる。
(ははは、いい音)
夏の雨の日は、不思議と蝉が鳴いていない。
こういう日は、彼らはどう過ごしているのだろう。
雨の中、お菓子の入ったレジ袋を片手に、家に向かう。
そんな、突飛な疑問が生まれては、過ぎていく。
雨の日とは言えど、午前中は、辺りは明るい。
私の透明な傘に、上手く光が届いて、よく雨粒が観える。
「ただいまー」
また、誰もいないけど言ってみる。
耳に届くのは、雨音ぐらい。
朝のテレビが言うには、1日中、雨。夜もきっと、音を立てて舞うだろう。
明日は、曇のち晴れの予報。
私に用意されたかのような1日、これから、どう満喫しようか。




