天色、別の夜に
「ただいまー」
時間は、16時頃。
夏とはいえ、もう、日が今日を終える準備を始めたのが分かる。
「雨音、そろそろ行くから、準備して」
「分かった」
家からここに来る時にも、同じ作業をした。
持ってきた服や、物をカバンに詰める。
いかにも、帰るという感じがする。
荷物をまとめ終わって、リビングへ向かう。
「真絃ーそろそろ準備してー」
「やだー怜翔さん、オセロしよー」
「真絃くん、帰る準備してからにしようか」
「んー、オセロしたらする」
「明輝さん、いつぐらい出ます?」
「あと、30分ぐらいですね…」
「うーん、真絃くん、やっぱり先に用意しようか、真絃くん強いからさ、オセロやると時間かかっちゃうんだよ」
「お父さんと風結が、服とか入れてくれてるから、あとはおもちゃとかお菓子いれるだけだよ」
多分、オセロがやりたいんじゃない。
帰りたくないのだろう。
帰らなくてよくなる理由を、探しては、口にしている。
気持ちは、よく分かる。
私も、帰りたくなくなったとき、なにかと、てきとうな事を言っていた記憶がある。
その時でたのは、突飛な言葉なので何を言ったかは、覚えていないけど。
私の場合は、多分、何かに納得して帰ったのだろう。
(なにか、できないかな)
「怜翔さんも、用意ありますよね?気にしないで、行ってきてください。」
「そうですね、真絃くんごめんねー」
お父さんが、この場から離席した。
だめだ、オセロをするしか思いつかない。
「あ!雨音ちゃん、オセロしようよ!」
(え)
「うーん、そーだな…」
「真絃、そろそろちゃんと…」
「そうだな、多分真絃くんは、私に勝てないよ」
「やらないと分かんないじゃん!」
「分かるよ、オセロは先を考えることが大事なゲーム。今ここで、真絃くんは何をすべきか、先のために何をすべきか、考えられてる?」
(ちょっと、言葉が難しいかな…)
「石を多く取ろうとだけ、考えてない?」
「…やっぱり、オセロは後でいいや。終わったら雨音ちゃん、オセロしようね!」
「いいよ」
用意と言っても、ただ、お菓子とか、おもちゃをいれるだけらしいんだけど。
ちょっと難しいことだけど、納得してもらえたようだ。
「オセロとは関係ないでしょ」とでも言われたら、そこまでだったけど、なんとか、オセロと自分のこと。
一緒のことと考えてくれたみたいだ。
「お母さん、準備終わったー」
「はい、ありがとう。真絃も、多分すぐ終わると思う」
「終わったよー」
「うい、じゃあ、あと少しだけどゆっくりしようか」
「真絃くん、オセロする?」
「うーん、やっぱいいや」
「え?いいの?」
なんか、私が色々言ったものの、こうなると少し寂しい。
無邪気さが失われたというか…
(あ、)
何やら、真絃くんは、手元を忙しくしている。
「真絃、それ、うちのじゃないよね?」
「うん、寝る部屋にあった」
たしか、真絃くんは、明輝ちゃんの部屋だった。明輝ちゃんのものだろう。
真絃くんは、ルービックキューブで遊んでいる。
「懐かしいそれ、私のだ」
「持って帰りなぁ」
おばあちゃんがそういった。
「いいの?やったー!ありがとう」
どうやら、新しいおもちゃを見つけたみたい。
なんだか、安心した。
「そろそろ行くよー」
横へスライドさせるタイプの扉。
この細かな自分の家との違いが、この先のことを、意識させる。
おばあちゃんも、一緒に外へ出る。
時間は、18時ごろ、暗がりになってきた。
この家を、一旦離れる。
そんな雰囲気をこの時間の明るさが、思わせる。
「雨音、またねー」
「うん、また」
「雨音ちゃん、次会ったらオセロしようね!強くなるから」
「うん、楽しみにしてるよ」
「真絃、オセロも持って帰る?」
「いいや、また来たときにやる。おばあちゃんが持っててー」
「はいはい」
「明輝も、真鳴斗さんも、気をつけてねー」
「咲久も雨音も、またね、早くて次は来年かなー」
「咲久ちゃん、今度私、そっち行くから、灯凪さんのところ、連れてってね」
「はいはい、また連絡してね」
「あっ!怜翔さん!怜翔さんも、次会ったらオセロね!」
「分かったよー元気でね」
「お父さん、次は、来月?」
「そうだね、どっか食べに行こうか」
「うん、じゃあね、気をつけて」
「ありがとう。咲久、じゃあまた、連絡するね。雨音よろしく」
「分かった、気をつけてね」
こうして、それぞれが車に乗った。
3台の車は、一列に走り出す。
「おばあちゃんまたねー!」
おばあちゃんに、車から手を振る。
もう、おばあちゃんは見えなくなってしまった。
やはり、この瞬間は、いつも寂しい気持ちになる。
夜を迎える天色。いまの気持ちを映しているみたいだ。
車内には、聞きなれない、別地域のラジオ。
「そうねー、そろそろ8月終わりかー」
「まあ、まだある方ですけどね」
「でも、あっという間よ、意外と」
「そうなんですよねー、半月なんてすぐですからね」
大通りに出て、前方のお父さんの車と、風結の車とははぐれ、見失ってしまった。
数日前、車で通った道。
行きとは違った姿で、別の道を行ってるようだ。
高速道路への入り口が見えた。
ここから一気に、家へと向かっていく。




