夜、お食事のお時間
どこか、軽やかな足音。
「雨音ちゃん」
真絃くんか
「真絃くん、どうしたの?」
「僕もお風呂掃除したい」
「いいよーじゃあスポンジでゴシゴシしてね」
小学生って、意外と体が小さくて、子供に見える。
真絃くんも、私より小さな手で、スポンジを握っている。スポンジが大きく見えるほどだ。
「はい、ありがとう真絃くん、お家でも掃除してるの?」
「うん、姉ちゃんと交代で」
「へー偉いねぇ」
小学3年生で、ちゃんと手伝いをしている。素直に関心する。
私は泡を流そうと、シャワーを取った
「僕がやりたい!」
「ああ、どうぞ」
慌てたように言うから、こちらもなんだか角張った言葉になってしまった。
シャワーを持つ手に、また、幼さを感じた。
「ありがとう…あ、」
そういえば、先程までリビングにいたのは、大人と、真絃くんだけだ。
大人ばかりだし、居心地は…まああの人たちだ、何かと話してくれるだろうけど、まだ小学生で、3年生ともなれば、礼儀も備わってくる。
気を使ったり、気を使うことが正しいのか、色々と考えるだろう。
「ありがとう真絃くん、リビング行こうか。私も行くよ」
「うん!」
とびきりの笑顔。風結と似ていると思う。
リビングに行くと、大人たちは何やら盛り上がっていた。
「いや、意外とそうなのよ、色々考えてるって言うかさ、」
「ねー、見た目だけじゃないんだなって」
「おっ、雨音、今あんたたちのこと話してたの」
明輝ちゃんがそう言った
「私たち?」
ああ、手元にはビール缶が。
18時前、もう飲み始めたのか。
すると、明輝ちゃんに継いで、お母さんが続ける。
「いや、子供とはいえど、意外と考えてるよなーって」
「ふーん」
「小さな体で、しっかり考えていて、もちろん、詰めが甘い時もあるけど、間違いじゃなかったり、むしろ大正解だったり、大人とは違った方向から正解を見つけていたり。」
「そうだね、もう私ぐらいになると、大人と変わらないほど考えている子もいるかも」
「そうねー、なんなら大人より考えてる子もいるかもね、大人が考えてないのかもしれないけれど」
お酒が入ると、語りたくなるのだろうか。
お母さんはいつもそうだけど、明輝ちゃんもなのかも。
やはり姉妹だ。
「ああ、ごめん真絃くん、何しようか」
「オセロ」
「え?オセロ?うん、やろうか」
びっくりした。ついお絵描きとかでもするのかと思っていたけど、オセロか。
絵を描きながら、色々話せたらと思っていたけど。
まあ、オセロでも会話はできるか。
「真絃くん何色にする?」
「黒」
「はーい」
オセロの序盤は、ある程度高スペースで進んでいく。
「真絃くん、学校は楽しい?」
「うん」
「好きな教科は?」
「図工」
「風結とは、どんな感じ?」
「普通ー」
「部活は…まだか」
「うん」
まずい、これは恐らく、真絃くんは本気でオセロをしているんだ。会話は邪魔だったかなー。
ちょっとして、さらにまずいことになっていると気づいた。
本気でやっている真絃くんに、手加減をして負けるべきか。
ちゃんと本気でやって、正面から戦うべきか。
兄弟のいない私は、こういうのは、きっと得意じゃない。
真絃くんと戦いながら、今、自分とも闘わなければならない。
(真絃くん、すごい考えているな)
5分ほど、このままだ。
相手は姉弟の末っ子。私は一人っ子。
どちらも、年下に手加減をする。ということをあまり知らない。
すると、風結がやってきた。
「あ、オセロ?雨音、本気でやっちゃいな!」
「え?」
「雨音ちゃん、本気でやって」
「ああ、うん」
「風結、野菜終わった?ありがとう」
「終わったよー後は炒めて作るだけだからって、おばあちゃんに任せちゃった」
風結とは対照的に、静かな真絃くん。
しかし、勝負となると、本気なんだ…そこは、風結と似ている。
風結は相当な負けず嫌いで、過去にクイズをした時、私の方が沢山答えてしまって、悔しかったのか、風結は泣いてしまっていた。
「雨音ちゃん、もう1回!」
「いいよー」
今回は、私の勝ち。中3と、小3。中々難しい。
「うーん、もう1回!次は勝てそう!」
「はーい」
もう1戦始めようとしたころ、
「はーい、ご飯出来たよー持ってってー」
「はい!」
「食べてからにしようか」
「うん」
私たちは、おばあちゃんの盛り付けてくれたご飯を、リビングへ持っていく。
二つテーブルがあって、二つに分かれて、ご飯を食べる。
「うわー美味そう」
「ホント、すごく美味しそう」
「やっぱお母さんの料理ね」
「うんうん」
「えー、私達もつくったよ!」
「えーそうなの?じゃあ、ますます楽しみかな」
「いただきまーす」
「いただきます」
「いただきます」「いただきます」
「いただきます」
「いただきまーす」「いただきます」
「いただきます」
「やっぱ美味いな!」「ホントですね」
「最高」
大人たちの、おばあちゃんのご飯とお酒に、かんぱいする声。
私たち3人は、一緒のテーブルで食べる。
「美味しいねー最高だわ」
「だよね、真絃くん美味しい?」
「美味しい!」
この瞬間が、たまらなく好きだ。
沢山の人が、ご飯を口に運び、言葉を交わす。
音だけでいえば、騒がしい。はずなのだが、そんなことは、全く思わない。
むしろ、心地よいとも感じる。
「雨音ーホント美味しそうに食べるよね」
「ホントだ雨音ちゃん、すごく美味しそう。」
「すぐ顔に出るのよ!その子は!」
「咲久も、人の事言えないでしょ?」
「ははははは」
「プリンのときやばいですよね!明輝さん!」
お父さんも、なんだか肩の力が抜けたみたいだ。
「えー!?まだ顔にでてるの!?」
「やめてよー」
「食べ終わったら、まだスイカあるよ」
「やったー!」「よっしゃ!」「スイカ多くない?」
「雨音ちゃん、オセロってどうやったら強くなれるの?」
「真絃、まだ言ってる」
「ははは、オセロはね、沢山沢山考えるんだよ」
「考えてるんだけど、勝てなくてさー」
「ははは、練習だね」
ずっと続けばいいのに。こう思わずにはいられない。
ここで私が摂取するのは、ご飯や、栄養だけじゃない。
この賑やかさでしか得られないものも、私は得ることができている。
それは、永遠ではないからこそ、得ることができる。
そんな風に思う。
私たちが、四角に切られた優しいスイカを食べていると、お風呂が沸いた。




