揺るぎない1日
ピンポーン
「雨音ちゃんごめんね!すぐ行くから!」
今日は晴れ、青一面に、ところどころ白が混じった、そんな天気。
8月に入って早々、出校日がある。今日がその日だ。
「お待たせ!ごめんね雨音ちゃん」
「雨音ちゃん、たまの出校日にもこんなでごめんね」
「全然大丈夫です。おはよう晴美」
「おはようー」
晴美は、あくびをしながらそういった。
「雨音ちゃん、いつもありがとう。二人とも気をつけてね」
「行ってきまーす」「行ってきます」
「もうすぐ雨音ちゃんの誕生日だねー」
「うん」
私の誕生日は、8月12日。今日は、8月3日だから、あと、10日もない。
「もうすぐ、晴美と同じ歳になるね」
「そうだねー待ってるよ」
「ははは」
学校に向かう生徒が増えてきた。
「みんな制服じゃないね、制服登校じゃないと、なんだか変な感じするー」
晴美がそう言う。
「そうだね、まあ制服は暑いし、私はこれでいいけど」
「私もー」
暑い、目線の先に、陽炎が見える。
「誰だ、夏休み中に出校日を設けたやつは」
「まあいいじゃん、すぐ終わるし、お前は暇だろう?俺もだけど。」
「でもさ…なんか、違うよな」
「分かるぞ、言わんとしていることは分かる。」
そんな会話が聞こえてきた。男子二人だ。
(そうなんだよなー、私たちの為の出校日なんだよな、生活習慣とか、そういうことを考られて作られたんだろうけど…)
「私たちのため」ということが分かっているので、下手に文句は言えない。言わない。
多分彼等も、そうなのだろう。
学校が見えてきた。
真夏だ。エアコンが効いていることを願う。
「じゃ、後でねー雨音ちゃん」
「うん、後で」
私の教室の奥に、晴美の教室がある。
「おはようございまーす」
(涼しい…!)
「おはよー」
あまり人がいない。
「雨音ちゃんおはよー」
藤田さんだ。
「出校日やだねー早く帰りたい」
「そうだね、たった2時間ぐらいなんだけどね」
「うーん。雨音ちゃん、今度の土曜日さ、夏祭り行く?」
「夏祭り?」
「そうそう、ここからすぐなんだけど、神社で夏祭りがあるんだ。」
「へー、行ってみようかな」
(晴美は知ってるかな…)
「私ね、田畑くんと一緒に行けることになったの!」
おお、大きな声。
そして、弾けるような、幸せそうな笑顔。
「大きな声出しちゃった…あんま人いなくて良かったー」
そういえば、藤田さんは1組の田畑くんが好きだったな。
「どっちから誘ったの?」
「私なんだー結構頑張ったの」
「え!すごい!」
「ありがとうー」
本当にすごい。
藤田さんは、はっきりものを言えるような子ではないし、やりたいことがあっても、遠慮したり、他の子を優先してしまうような子だ。
すごく、頑張ったんだろうな。
「おはようございまーす」
先生が来て、すぐ鐘がなった。
「今日は、10時50分まで、自習です。夏の課題でも、他の勉強でも大丈夫です。各教科で分からないことがあれば、教室を移動したり、先生方が回って来てくれるので、その時聞いてください。」
「はーい」
「まあ、ゆっくり、自分のペースで、休憩しながらね、頑張ってねー」
みんな、重い動作で、持ってきた宿題やら、ワークを広げる。
もちろんそれは、私も。
(今日は…数学をやろう)
段々と、ペンを走らせる音が増えてきた。
ペンの音と、無数のセミの声が、静かさを引き立てる。
その後も、何も変わらず時間が過ぎた。
途中で寝てしまう人もいたし、動きが忙しい人も、時々、先生がやってきた。
鐘が鳴った。
集中していたからだろう。案外早く終わったように感じた。
「はーい、お疲れ様です。帰る準備してー」
「やっと終わったー」
「お前ほぼ寝てただろ」
「雨音ちゃん、終わったね」
「うん」
「はい、号令お願いしまーす」
「起立、礼、さよーならー」
「さようなら」
「はい、また二学期ねー」
「藤田さん、じゃあね、夏祭り応援してる」
「ありがとう!またねー」
(夏祭り…晴美は知ってるかな、一緒に行きたいな)
1組は…まだやっている。
1組へ向かう。
「晴美ちゃん、夏祭り知ってる?一緒に行かない?」
「え?夏祭り?知らないなー」
「次の土曜日なんだけど」
「ああ、そうなの?その日は空いてるけど…他の子と行くかもー。いつもお祭りがあると一緒なんだー」
「そうなの?じゃあまたお祭りでね」
「ごめんねーありがとう。じゃあねー」
晴美がこっち来た。
「あ!雨音ちゃん、一緒に帰ろ!」
「うん」
「晴美、今度祭りがあるみたいなんだけど、もう、誰かと行く予定とかあるかな」
さっき、誘われているみたいだったから、こんな風に言ってみた。
「うん!空いてるよ!一緒に行こう」
「ありがとう」
(…クラスの子と行った方が、思い出に残ったりしないかな)
私たちは喋らずに、校門を出た。
「晴美、さっきさ、クラスの子に夏祭り誘われてなかった?」
「えー、うん」
「その子たちとじゃなくていいの?私は気にしないよ」
「うん、私は雨音ちゃんと行きたくて、断ったんだー」
「ありがとう」
8月に入って間もない。まだまだセミの季節だ。
長い休みに、1つ出校日という変わり種が挟まれた。
何ら変わらない1日なはずだけど、なくてはならない1日。そんな気がする。




