曇り空、緩やか(2)
最後まで聴きたかった気持ちも残しつつ、車を降りた。
麺処ウどん。1つの大きな看板が、建物を飾っている。
ラーメン屋らしいのだがこの店名。
そしてその大きな看板は、どんぶりに、白く太めな麺。
誰がどう見ようと、うどんだ。
しかし、その麺を彩る具材が、チャーシューに、メンマ、ネギ、鳴門だ。
ラーメン屋にしてはぶっとんでいる。
しかし、わざわざこの驚きを、口にするような年齢ではない。
なんの反応もせず、店に入る。
木で出来た縦に長いドアノブ。
「いらっしゃいませー何名様でしょうか?」
「2人です」
「こちらへどうぞー」
1つのテーブルを、ふたつの椅子で挟む形の席へ、案内された。
「なにかありましたら、こちらのベルでお呼び出しください。ごゆっくりどうぞー」
「ねぇ雨音、なんでラーメン屋なのにウどんって言うんだろうね」
「そうだね、それは気になってた」
そう言いつつ、メニューを広げる。
ウどんラーメン…
思わずツッコミたくなる。
「ウどんラーメンだって、どっちよこれ」
母がそう笑う。
写真を見る限り、面が太い。
まるであの看板のようだ。
「なんか、麺も太くて、うどん見たいかも」
「そうだね、私これにしよ」
「じゃあ私も」
ベルを鳴らす
「はーい」
「お待たせ致しました」
「この、ウどんラーメン2つください」
「かしこまりました。無料で大盛りにもできますが、いかがですか?」
「どうする?雨音」
「私は大盛りで。」
「じゃあ、2つとも大盛りで。」
「かしこまりました。では、またなにかありましたら、こちらのベルで、お呼び出しください。」
お腹が空いていたので、大盛りにした。
お母さんは、さっき朝ごはん食べたのに、いけるのかな。
「さっき朝ごはん食べたのに、いけるの?」
「ちょっと気になるじゃん、このラーメン。もっと食べたくなってからじゃ、遅いし」
「ふーん」
なんで、ウどんなんだろう。
店名を聞いてから、少々気になっている。
麺処ウどん なぜ
私はスマホで検索をかけた。
【麺処ウどん、ラーメン屋なのに何故「ウどん」?】
記事を開こうとした時に、ちょうどラーメンが来た。
「お待たせしましたー、ウどんラーメン大盛りお2つですねー」
「ありがとうございます」「ありがとうございます」
「注文は、以上でお間違いないでしょうか?」
「はい」
「では、またなにかありましたら、ベルでお呼び出しください。」
「本当にうどんみたいだね」
「うん」
「いただきます」
「いただきます」
そういえば、さっきから事ある毎に、「なにかありましたら、ベルで読んでください」って言ってるかも。
「ねぇ、お母さん、さっきから店員さん、毎回「なにかあったらベルで読んで」って言ってる。」
「たしかに、そうかも」
「これ、なんでお店の名前がラーメン屋なのにウどんなのか、呼んだら教えてくれるんじゃない?」
「えーそんなことあるかなー?」
よくみると、ベルのすぐ下にも、「なにかありましたら、ベルで呼んでください」って書いてある。
「あっ、そういえば、私の職場の人も、「なにかあったら、店員さんを呼ぶといいよ」って言ってた。」
確定じゃないか。
「ちょっと、呼んでみようかな」
「えー、まあ、いいんじゃない?」
まだお母さんは確信を持てていないみたいだ。
私も正直、こんなことで呼ぶのは気が引ける。
しかし、好奇心と、私の考察があっているのか、確かめたい。
チン。
私はベルを鳴らした。
「はーい」
「す、すみません、なんでラーメン屋さんなのに、お店の名前が「ウどん」なんですか?」
店員は、先程までの笑顔に、えくぼを足した。
「そうですね、元々は、うどん屋だったんです。ですが、中々、独特の、オリジナルのうどんは、作れなくて、ありふれた味でした。」
「そこで、当時の店主は、二代目なんですけど、どういう訳か、「これがオリジナルだ」とか言って、うどんに、ラーメンの具材を乗せたメニューを、追加しました。」
「最初は、「ウどんラーメン」っていう名前につられて注文されるお客様が多かったそうです。まあ、元々客足は少なかったので、最初のうちは、売上アップとまではいかなかったみたいで。」
「「ウどんラーメン」の売上が1番良かったからでしょうか。「ウどんラーメン」をきっかけに、二代目店主は、ラーメンの開発に力を入れました。次第にラーメンのメニューが増えていき、うどんは減って、今では1つしかありません。」
「「なにやらおかしなラーメン屋がある。」と、噂になった時、ちょうどよく、うどんの出汁と、独自で開発した出汁を組み合わせた「麺処ウどん」のオリジナルのスープが完成しました。」
「そのスープが好評で、見た目も面白いと話題になり、色々とタイミングも重なって、今も、お客様から愛されています。」
「少し長く話してしまいました。お時間頂き、ありがとうございます。」
「いえいえ、こちらから聴いたんです。ご丁寧ありがとうございます。」
母が、そうすぐに言った。
「急に聴いたのに、ありがとうございます。本当に興味深いお話でした。」
「ありがとうございます。こちら、勇気を出してベルを押して下さったお客様にプレゼントしております。」
そう言って、店員さんは、シールを2枚くれた。
「ありがとうございます。」
「それでは、私は失礼します。」
「ありがとうございました」「ありがとうございました」
「アンタ、意外と活発よね。行動力がある。」
「自分でも驚くよ」
「ははは、そこらへん、お父さんに似てるな」
勇気を出したわけでは無いが、ベルを押して良かった。
私たちはウどんラーメンを、スープまで飲み干し、店を出た。
「ごちそうさまでしたー」
「ありがとうございましたー」
「おいしかったねー、また来たい」
「うん、おいしかった」
お母さんの車に向かう。
すると、頬に冷たさを感じた。
「あー、降ってきた?」
「そうかも、今顔濡れた」
「洗濯干したままだよね!?急げ!」
車に乗りこみ、お母さんの車は、走り出す。
「…ですが、どうですか?」
ラジオだ。先程とは、違う声。
時間は13時前、午前の明るさは薄れ、雨が、強くなってきた。
車内には、雨音と、私とお母さん。そして、誰だか知らないけれど、二人の会話が乗っている。




