青色と大きな雲
今日は晴れだ。明るい青。まさに夏の空。
もう梅雨はとっくに明けてしまっただろう。
ニュースはまだ、梅雨明けとは言っていないのだけれど。
梅雨が明けたと思えば雨が降る。
ベタすぎるあるあるだ。
しかしそれは、なんだか本当になりそう。
私は今、青い空に浮かぶ、一際存在を示している雲を見つめている。
大きなわたあめ、ソフトクリームとも表現されるだろうか。
積乱雲だ。あの雲は、粒の大きい雨を降らす。
雷をもっていることもある。
この綺麗な青空も、あの雲が近づけば、暗くなってしまう。
私は雨が好きだ。
しかし、この青が去ってしまうのは、なんだか。
(写真に撮りたいな)
素直にそう思う。
しかし今はカメラを持っていない。
学校からの帰り道だ。夏休み前ということもあり、お昼前には学校を出る。
家まであと、10分程度。
(家からも、見えるかな)
写真に収めたい。
私は、足を速めて、カメラを目指す。
この暑さだ。走るのは気が引ける。
いつもの居酒屋が、目の前に。
ここを曲がれば、100メートルぐらい先に私の家。
その先は、小さな坂。いつもの坂だ。
(ここを曲がれば!)
私はついに走った。
タッタッタッタ
通学用のカバンを背負いながら走るのは、やはり少しきつい。
見えた。私のカメラが待つ家だ。
(…?)
私は足を止めた。
カバンの中が揺れていたのが分かる。
小さな坂の頂きに、誰かいる。
(晴美?)
うちの学校の制服にみえる。
そして、何となく晴美な気がする。
カバンを自転車のカゴに預け、坂を登る。
(晴美だ。)
小さな坂だ。少し登るだけで確信した。
「晴美」
「雨音ちゃん?ああ、雨音ちゃんだ」
「何してるの?」
左手にスマホを持っている。
「写真撮ってたんだーほら、あの雲、綺麗だなって思って。」
「積乱雲だね。私も、写真を撮りたくて、ちょっと走って来ちゃった。」
「取ってきなよ、私待ってる。」
「わかった。」
私は家に向かった。
カゴに置いたカバンには、目もくれず、家に飛び込んだ。
(…)
私は、少し迷い、スマホを持っていくことにした。
私は坂を走って登った。
走っているのに、平らな道に比べて、進みが遅い。
「お待たせ、晴美」
「おお、走ってきたの!?小さな坂だけど、ちょっと大変だよね」
スマホを、大きな白い雲に向けた。
カシャ。
(なんだか、栞みたい)
縦に長い画面に収まる青空と、大きな雲は栞のようにも見えた。
(そういえば)
「晴美が、こういう写真を撮ってるのって、珍しい気がするな」
「そうだね、綺麗だと思っても、あんま撮らないかも。でも今日の空は、なんだか、写真に残したかったんだ。」
それだけ、綺麗なのだ。
「いいね」
「あとここ、坂の上だし、ちょっと高いでしょ?だから、町を眺められて、私好きなんだー」
なんか、今日の晴美は、いつもより落ち着いている。
というか…爽やかさがある。
風が吹いた。
ぬるい風なのだけど、暑すぎるので、涼しく感じる。
「なんか、ここ見てると、気分が落ち着くなー」
「分かる、今日みたいな空があると、爽やかだよね」
「そうそう。」
5分ぐらいだろうか。
会話することなく、景色を眺めてたり、写真を撮ったりした。
「そろそろお腹が空いてきたからじゃあね、雨音ちゃん。」
「うん、またね」
私は坂をおりる。
私は暑がりだ。夏の爽やかさとか、あんまり分からない。
今日はあえて、スマホで写真を撮った。何となく、晴美と一緒が良かった。ただ、それだけ。
なんだか、夏の持つ、暑さ以外の魅力。爽やかさを、少し感じた気がする。
家に着いて、少ししたころ、空が暗くなってきた。積乱雲が、近づいて来たのだろう。
私は珍しく、あの青空が、恋しくなった。




