曇り空、覗く晴
今日は曇り。蒸し暑さがある。
「ああー頭痛い…」
「私も」
クラスではこんな声が。
こういう日は、頭痛持ちには厄介。
私も、今日は頭痛に襲われている。
(最近は少なかったのに)
あんま効いた試しがないが、顳かみを押したり、首の付け根部分を押してみる。
「もしかして、雨音ちゃんも頭痛い?」
後ろの席の、藤田さんがそう言った。
「うん、ちょっとね」
「私も痛いんだー」
「気圧や、天気で頭痛が起こるって不思議だよね」
苦笑混じりに言ってみる。
「そうだねー」
「ところでさ雨音ちゃん、好きな子っているの?」
(おお、唐突だな)
この言葉をそのまま口にしても良かったが、なんか躊躇った。
「そうだな、ちょっと前、中1あたりはそういうのあったんだけど、今は無いかな」
「えー、そうなの?」
これは本当だ。一年生ぐらいまでは、気になる子がいた。
しかし…
「気になる子がいたんだけど、その子の、ちょっと良くないところを見ちゃって。それからそういうのは無いかな。」
ざっくり言えばこうだ。
「あーそうなんだ。私はね、一組にいる田畑くんが好きなんだ。」
(はっきり好きという言葉が使える子なんだ。)
素直にそう思った。
つい、気になってるとか、そういう言葉で濁すと思っていた。
「どうして好きなの?」
「中二の頃、同じクラスで、すごく優しくしてくれて…グループ活動のとき、やりたことがあったんだけど、中々言い出せなくて。その時、田畑くんは私の代わりに「藤田がやりたいって言ってた」とか言ってくれて。席が近かったから知ってくれてたのかな…それと…」
理由なんて聞くんじゃなかった。私は軽くさっきの言葉に後悔した。
彼女はまさに、恋する乙女という顔をする。
私はこの流れに栓をするつもりで
「やりたいことって言いにくいよね、特に、みんなで活動する時とかだと…」
「そう!私はホントにそういうのが苦手で、あのときはすごく嬉しかったなー」
「ごめん!話し過ぎた…雨音ちゃん…は好きな人のどんなところを見ちゃったの?」
「うーん。なんか、好きな人の事って不思議と観察しちゃうんだけど」
「分かる」
「ある日、その子が悪口みたいなの言ってて、ちょっと、悲しかったな。」
「あーそうなんだ、でも、悪口はみんな言うんじゃない?」
「そうなんだけど、悪口を言われてる人がすぐ近くにいて、聞こえる位置だったんだ。なんか、配慮みたいのが足りないなって。」
「それは良くない!悪口はせめてその人のいないところでだよね!?」
「そうだね、はは…」
ちょうど、昼休みが終わる鐘がなった。
本当に苦しい笑いだ。
その悪口を言われている。のは、私だった。
「暗くて、関わりずらい、なんか浮いてる」との事だ。
今思えば、どれもどこかフワフワしているし、曖昧な意見だし、気にしてはいない。
ただ当時の私には、好きな人から酷く言われている。というのがすごく悲しかったのだ。
ちょうど人のことをよく見るようになった頃だ。
そのせいで人の良くない所も目に入ってしまう。
人を疑う気持ちがどこかにあるのだろう。
それ以来、「好きな人」もとい、「気になる恋愛対象」ができたことがない。
「今日の授業は、一組と合同です。中庭に行きましょう」
一組の授業が潰れたのだろうか、二組と合同だ。
技術の授業で、植物の植え替えをする。
「雨音ちゃん」
藤田さんだ。
(ああ、そうか)
「一組と一緒だね」
「そう!なんだかラッキー」
「いいね」
私もラッキーだ。一組には晴美がいる。
中庭に着いた。
さっきまで、過去のことで少し沈んでいた。
曇り空という表現が、適切だろう。
しかし目の前には、心地のよい太陽がいる。
「雨音ちゃん!一緒にやろう!」
太陽が私に話しかけている。
「うん、スコップ持ってくる」
(晴美はモテるだろうな…)
今日は曇り、蒸し暑さのある天気。
気持ちの悪い天気と表現する人もいるだろう。
しかし私の持つ小さな空は、それとは真反対だった。