晴れ、どきどき晴れ(4)
私は、地上に出るにつれ、高揚を感じる霧が、晴れるような気分になった。
改札を出る。
私はいつも、この改札をくぐる時は、「旅が終わった」という感じがする。
電車に乗るためにくぐる改札は、別に「旅の始まり」という感じはしないのだけど。
宵音ちゃんの言う、喫茶店に向かう。
私はまた、ある予感がしている。
今から向かう喫茶店は、私のよく知る店なのではないかと。
私はたまに母と、休みの日に朝食をとりにいく。
その喫茶店なのでは?と、予感している。
私の知らない道を行く。
個人でやっていそうな雑貨屋。
大きな葉を付けた観葉植物がある店。
小さな理髪店。知らない店たちだ。
しかし、不思議と、親しみがあるというか、懐かしさに近い感覚があった。
だんだん、見慣れた景色になっていく。
私の予感は、だんだんと濃くなっていく。
「ここです。」
私の予感は、確信に変わった。
「ここ、私のおばあちゃんがやってて、ゆっくり出来ると思います。」
「おばあちゃん、ただいま」
「おかえり…えっ!雨音ちゃん?いらっしゃい」
「こんにちは」
「えっ!?おばあちゃんと雨音さんって知り合いなの?」
「雨音ちゃん、お母さんとよく来てくれるの」
「ごめん、お店着いたとき言おうと思ったんだけど」
「なんだー」
(なんだか、残念そう。悪いことをしたかな。)
ソファのある席に座った。
「はいお水」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「私は、冷やし中華がいい」
「はい、雨音ちゃんはどうする?」
「私は、カレーで」
「はーいちょっと待ってね」
ここのメニューを見る度、「なんでもあるな」と思う。
他人のおばあちゃんって、なんて呼んだらいいのか分からない。
宵音ちゃんのおばあちゃん?おばあさん?何がちょうどいいのだろう。
「おばあちゃん、料理すごく上手だね。」
(あってるか?)
「メニューが沢山あって、なんでも作れるイメージ」
「おばあちゃん」を誤魔化すために、被せるように言った。
「そうですね、料理は好きって言ってました。」
「おばぁちゃん」は問題ないみたいだ。
そういえば、宵音ちゃんには、言葉で気を使ってもらわなくてもいいかも。
「雨音さん、タメ口で話してもいいですか?」
心が読まれたのかと思った。
「いいよ。驚いたな、ちょうどそんな事考えてた。」
「ですよね、顔に出てます。」
「またか」
「じゃあ、タメ口で」
「うん」
こういうときって、なんだか、ぎこちなさが残る気がするけど、不思議とそんなことはない。
「そういえば、宵音ちゃんが撮りたかった景色って?」
「ああ、ちょうどここからの景色で、この窓から見る景色を撮りたいなって
やっぱり、人が町を歩いてるの、好きだな。」
宵音ちゃんは、窓にカメラを向ける。
「撮れた。」
「ここからみる、人の往来が、小さい時から好きで、カメラで撮れるのが嬉しい。」
「いいね、みてもいい?」
「いいよ」
「すごい、やっぱり、写真上手だよね」
「ありがとう」
明暗が繊細で、ちょうどよく、映る人の日常が上手く出ている。
3人ほどこの景色に入っている。
どの人も特別取り上げるような感じはしない。
でも、それぞれに違うものを感じる。
「しばらく観ていたくなるな」
「嬉しい、雨音ちゃんの写真も素敵。自然が絡んだ日常が好きなんだなって、この前の部活で思った。」
「ありがとう、日常。好きな言葉だな。」
「私も」
「はい、お待たせ」
「ありがとう」「ありがとうございます」
「食べ終わったら教えて、アイスあるから」
「やったー!」「ありがとうございます」
私は、出来たてのカレーを食べる。
今日は晴れ、白い雲が良く似合う、青空だ。
ほぼ夏と言ってもいい季節。今日の暑さはなんだか忙しい。