晴れ、どきどき晴れ(2)
私たちは、電車を降りた。
「なんか、凄かったですね。あんなの見たの、初めてかも。」
「なかなかないよね。多分、あの男の人は、絡まれてた男子二人を助けたんじゃないかな」
「そうですよね、もしかしたら、本当に話したかっただけかもですけど。」
「たしかに」
たしかに、その可能性もある。
雰囲気が少し、変わった人だった。
「それより、カメラが楽しみです。ちょっと調べたんですけど、少し高いですよね」
「そうみたいだね、私は貰い物だから、あんまり値段とか知らなかったけど」
電気屋に着いた。
「やっぱり、電気屋って、電気屋な雰囲気出してるよね」
「え?」
「ごめん、分かんないよね」
「分かんないですけど、電気屋って、いつも明るくて、変わんないですね。電気屋のイメージは、固定されているかも。」
私たちはカメラが並ぶところにきた。
「沢山あるね」
「どれがいいんだろう。」
「一応私のは、写真をとったら、自動でスマホに送られるんだ。」
「へー、私もそんなのがいいな」
しばらく私たちは、カメラを見てまわった。
宵音ちゃんは、一つ一つに、かなり時間をかけている。
それぞれのポイントをしっかり見ているのだろう。
私も、買うわけではないけれど、見て回る。カメラは好きな方だ。
(あれいいな、でも、ちょっと高い。)
(あれで、撮ってみたいな)
(え!高すぎでしょ…)
触るのも怖いほどだ。見ている分には、楽しいのだけれど。
「雨音さん」
「はい」
私は咄嗟に振り向いた
「雨音さん、すごく楽しそう。あと、値段とかに驚いてないですか?」
「え、そうかも」
(なんで分かったんだ?)
「やっぱり、雨音さん、めちゃくちゃ顔に出てます」
宵音ちゃんは、いたずらに笑った。
(顔に出やすい、か…)
(そんな事、あんまり言われたことないな)
「全然恥ずかしいことじゃないですよ、むしろ、表情が豊かで、可愛いぐらいです。」
「そうかな、ありがとう」
「ははは」
宵音ちゃんはまた、笑った。
それから彼女は、あるカメラの前で、立ち止まった。
「私、これにしようかな」
「いいね、なんか見た目も可愛い」
「そうですよね、雨音さんみたい」
(あれ?なんか、からかってる?)
「ははっ、なんだそれ」
「すみません、ちょっとからかいました。」
別に、嫌な気はしない。彼女の笑顔が、なんだか優しいからだろうか。不思議と、笑顔さえ出た。
「七万…高いね」
「大丈夫です。私、あんまりお年玉とか使わなくて、溜まってるので。」
「すごいね、私はすぐ使っちゃうな」
宵音ちゃんは、店員さんに説明も受け、カメラを購入した。
「私のカメラ、なんだか嬉しい。早く使いたいなー」
「沢山撮ろうね」
「はい!」
私は正直、まだお年玉を七万、使わずに持っているのがすごいなと。頭から離れない。
「もうお昼だね」
「そうですね」
「雨音さん、お昼、私の家の近くで食べませんか?」
「いいよ」
「カメラで撮りたいところが、もう決まっていて」
「いいね、そうしようか」
「いい喫茶店です。雨音さんも、なんだか好きそう。」
「楽しみ」
私たちは、駅に向かった。
(そういえば、今朝の男性は、男子二人を助けるためだったのか、ただ、話が聞いてほしかったのか、どっちなんだろう)
(同じ電車に乗ってきたりしないかな)
ついさっきの駅。今朝の出来事を思いださせた。
私たちは、電車に乗った。
一応、軽く辺りを見回した。
(いない。)
そういえば、男性はこの一つ前の駅で降りた。
(意外と乗ってきたりして)
特別、期待をすることもなく、一駅が過ぎた。
私は、さっきよりも、首を振る。
ああ、たまに、こいうことがある。