表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨の日の晴  作者: 宿木
23/122

晴れ、どきどき晴れ(1)

今日は晴れ、休日だ。


今日はこれから、同じ部活の後輩、宵音ちゃんと、カメラを選びに行く。


私のではなく、宵音ちゃんの。


宵音ちゃんが、「カメラが欲しいから、ついてきてほしい。」と、誘ってくれたのだ。


近くの駅で待ち合わせ。


少し遠くの、都会の方へ買い物に行く。


私が駅に着くと、もう宵音ちゃんは、駅に着いていた。


「ごめん、お待たせ」


「全然です!私が早く着きすぎました」


「ありがとう。じゃあ行こうか。」


私たちは、改札を抜けた。


地下鉄で感じる、独特なにおい。


「雨音さん、連絡先交換しませんか?」


「ああ、そうだね」


(そういえば、交換していなかった)


「…方面、…行きが参ります。黄色い線の内側まで、お下がりください。」


「来たね」


私たちは、電車に乗った。


休日の午前10時過ぎ、人はいるものの、混雑している、というわけではない。


やはり、小さな頃から、「電車では静かに」と教え込まれているからだろうか。


私たちに会話は生まれない。


しかし、別に嫌な気も、気まずいという感じもしない。


これは、以前もそうだった。


私たちが部活で写真を撮っていたときも、会話はなかったが、全くそういった気はしなかった。


むしろ、心地がいいのだ。


私たちの目指す駅に近づくにつれ、人が増えていった。


子供連れの人が居たので、私たちは席を立った。


目的地まで、あと三駅。


そんな中、一人、何やら独り言をつぶやく高齢の男性が乗ってきた。


「……たっく……っそ」


何を言っているのかは、分からない。


私は、別に気にすることなく彼女との沈黙に戻った。


「おいなんだ?なんかおかしいか?言ってみろ、聞いてやるから。」


(…?)


先程の男だ。


男は、目の前にいる中高生ぐらいの男子二人組に話しかけていた。


談笑をしている、という雰囲気ではない。


男子二人は、口を開く様子は無い。


(スルースキルだなぁ)


そんなふうに思っていると、一人の男性が。


「聞いてくれますか?私の愚痴。聞いても面白くないでしょうけど。」


ほんの少し、あたりは電車の音だけになった。


「えっ」


「私ね、普段はバスを使っているんですけど…」


「いや、アンタじゃなくて…」


老人は戸惑うが、男性は、話を続ける


「遅延証を求めたら、なんか運転手さんを怒らせてしまって、「今、遅れてるんですよ、分かってますよね?」って。ちょっと怒った口調で。」


「ああ…」


その顔には「困惑」という言葉が良く似合うだろう。


「誰も悪くないんですけど、これ私が嫌な思いしただけだなって後から気づいて、まぁ、遅いんですけど。」


その様子をみて、笑っている人もいる。


「そこで怒っても、何も変わらない。むしろ遅れがさらに出る。運転手は、合理的ではないな。」


(ああ、話聞いてたんだ)


老人が、その男性と会話を始めた。


「そうですよね。合理的ではありません。でも、人間なんだから、仕方ないか。と思いました。他の動物とは違い、合理的な判断ができる人間ですが、自分の感情に従うこともできる。それも、人間です。」


「感情と、他の動物にはない、細かい考察の先の合理的判断。その先に、人には欲望が生まれると思うんです。その欲望が、運転手の場合、「感情を言葉にする」ということだったのでしょう。」


「はぁ、よく分からんが、溜まってんだな」


「はははは」「ははは」「ははは」


車内には、笑いが広がった。


嘲笑、という感じは少なく、なんだか、温かさがある。


「聞いてくださり、ありがとうございました。あなたは、お優しいのですね、それでは」


男性は、電車を降りていった。


男子二人も、いつの間にか、いなくなっていた。


(本当は、あのおじいさんの方が、話を聞いてほしかったんじゃないかな。)


そんなふうに思いながら、電車に揺られる。


「次は、……。お出口は、左側です。」


「着いたね」


「はい」


私たちは、電車を降りた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ