晴れ、どきどき晴れ(1)
今日は晴れ、休日だ。
今日はこれから、同じ部活の後輩、宵音ちゃんと、カメラを選びに行く。
私のではなく、宵音ちゃんの。
宵音ちゃんが、「カメラが欲しいから、ついてきてほしい。」と、誘ってくれたのだ。
近くの駅で待ち合わせ。
少し遠くの、都会の方へ買い物に行く。
私が駅に着くと、もう宵音ちゃんは、駅に着いていた。
「ごめん、お待たせ」
「全然です!私が早く着きすぎました」
「ありがとう。じゃあ行こうか。」
私たちは、改札を抜けた。
地下鉄で感じる、独特なにおい。
「雨音さん、連絡先交換しませんか?」
「ああ、そうだね」
(そういえば、交換していなかった)
「…方面、…行きが参ります。黄色い線の内側まで、お下がりください。」
「来たね」
私たちは、電車に乗った。
休日の午前10時過ぎ、人はいるものの、混雑している、というわけではない。
やはり、小さな頃から、「電車では静かに」と教え込まれているからだろうか。
私たちに会話は生まれない。
しかし、別に嫌な気も、気まずいという感じもしない。
これは、以前もそうだった。
私たちが部活で写真を撮っていたときも、会話はなかったが、全くそういった気はしなかった。
むしろ、心地がいいのだ。
私たちの目指す駅に近づくにつれ、人が増えていった。
子供連れの人が居たので、私たちは席を立った。
目的地まで、あと三駅。
そんな中、一人、何やら独り言をつぶやく高齢の男性が乗ってきた。
「……たっく……っそ」
何を言っているのかは、分からない。
私は、別に気にすることなく彼女との沈黙に戻った。
「おいなんだ?なんかおかしいか?言ってみろ、聞いてやるから。」
(…?)
先程の男だ。
男は、目の前にいる中高生ぐらいの男子二人組に話しかけていた。
談笑をしている、という雰囲気ではない。
男子二人は、口を開く様子は無い。
(スルースキルだなぁ)
そんなふうに思っていると、一人の男性が。
「聞いてくれますか?私の愚痴。聞いても面白くないでしょうけど。」
ほんの少し、あたりは電車の音だけになった。
「えっ」
「私ね、普段はバスを使っているんですけど…」
「いや、アンタじゃなくて…」
老人は戸惑うが、男性は、話を続ける
「遅延証を求めたら、なんか運転手さんを怒らせてしまって、「今、遅れてるんですよ、分かってますよね?」って。ちょっと怒った口調で。」
「ああ…」
その顔には「困惑」という言葉が良く似合うだろう。
「誰も悪くないんですけど、これ私が嫌な思いしただけだなって後から気づいて、まぁ、遅いんですけど。」
その様子をみて、笑っている人もいる。
「そこで怒っても、何も変わらない。むしろ遅れがさらに出る。運転手は、合理的ではないな。」
(ああ、話聞いてたんだ)
老人が、その男性と会話を始めた。
「そうですよね。合理的ではありません。でも、人間なんだから、仕方ないか。と思いました。他の動物とは違い、合理的な判断ができる人間ですが、自分の感情に従うこともできる。それも、人間です。」
「感情と、他の動物にはない、細かい考察の先の合理的判断。その先に、人には欲望が生まれると思うんです。その欲望が、運転手の場合、「感情を言葉にする」ということだったのでしょう。」
「はぁ、よく分からんが、溜まってんだな」
「はははは」「ははは」「ははは」
車内には、笑いが広がった。
嘲笑、という感じは少なく、なんだか、温かさがある。
「聞いてくださり、ありがとうございました。あなたは、お優しいのですね、それでは」
男性は、電車を降りていった。
男子二人も、いつの間にか、いなくなっていた。
(本当は、あのおじいさんの方が、話を聞いてほしかったんじゃないかな。)
そんなふうに思いながら、電車に揺られる。
「次は、……。お出口は、左側です。」
「着いたね」
「はい」
私たちは、電車を降りた。