二つの音(2)
私たちは、話しながら、校内を回っては、シャッターを切った。
「そういえば、この間みたいな、半分晴れで、半分雨のことを、片時雨って言うみたいです。」
「そうなんだ。片時雨、案外そのままかも、でも、なんだか素敵」
「秋とか、冬に多いみたいなんですけど、この間は珍しかったですね。」
「へえ、あの天気自体も、珍しいよね」
「そうですね、綺麗で、私は好きです」
「私も。」
その後は、とても静かだった。
行動はほぼ一緒なものの、好きに写真を撮っていた。
「そろそろ、戻ろうか。」
「はい」
静かで、会話をしていなかったが、気まずいわけでも、居心地が悪いわけでもなかった。
むしろ、落ち着いていて、リラックスに近かっただろう。
「なんか、雨音さんとだと、不思議と変に気を使うことがないです。」
「私も、よいねちゃんとだとそんなふうに思ってた。」
晴美といる時と、なんだか近い。
「他の先輩とかだと、ちょっと気を使うんですけどね」
私たちは、部室に戻った。
「おかえり、雨音ちゃん、よいねちゃん。」
「どうだった?」
「楽しかったです。なんだか、よいねちゃんとだと、気を使わないっていうか、楽でした。」
「私も、そんな感じです。」
「仲良くできそうで良かった」
「よいねちゃん、よろしくね」
先生がそう言った。
「はい、よろしくお願いします。」
「じゃあ、解散しようか、おつかれ」
「よいねちゃん、一緒に帰ろう」
「はい!ちょっと、入部届け、名前だけ書いていいですか?」
「うん、分かった」
私は、彼女の入部届を、少し覗いた。
(神田宵音…よいねちゃんに、ぴったりかも)
「書けました」
「よし、行こうか」
「先生、さようなら」
「さようなら」
「はい、気をつけてねー」
「雨音さん、カメラって、雨音さんは、自分のですよね?」
「そうだね、部活以外でも、写真撮るのが好きで」
「私も欲しいな」
「私のは、もらったのだけど、電気屋さんとかに売ってるかも」
「今度、一緒に見に行ってくれませんか?」
「いいよ、行こうか」
「ありがとうございます!」
(なんだか、妹みたいだ。)
姉妹だったらこうなのかな。
なんて、この世にありふれた言葉が、胸の内にでてきた。
「さっき、入部届見ちゃったんだけど、宵に音って書いて、宵音っていうんだね」
「はい」
「素敵な名前。落ち着いた雰囲気で、宵音ちゃんに、なんだかぴったり」
「ありがとうございます。私も意外とこの名前が好きです。」
「いいね」
私も、自分の名前が好きだ。
「じゃあね」
「さようならー」
私たちは、別々の門を目指す。
夜を迎えようとしている空は、今の私の気持ちを映しているみたいだった。