晴れの日と雷と晴
今日は晴れ、なのだが、、
私は今、怒られている。
なぜ怒られているのか、よく分かっていない。
いや、理解はできるのだが、納得ができない。
「だから!なんでこういうことするの!?」
「分かんないです。」
私は、学校から帰り、お菓子を買いに行っていた。
その帰り道、この老人に捕まった。
「はぁ?舐めてんの?どーせ捨てるのが面倒なんだろ?飲んだジュースの缶くらい捨てろよ」
(言葉がなんだか若い。見た目ほど、老いていないのか?)
「さっきも言いましたけど、私が捨てたんじゃないです。」
「嘘言うなよ、俺は見てたんだよ、アンタが捨てるのを」
(見ていたなら、その場で声を掛ければよかっただろ)
この男が言う空き缶は、ぺしゃんこに潰れてて、汚れている。
明らかにここ数時間で捨てらてたものではない。
「いつ見たんですか?明らかに、捨てられてから時間が経っていると思いますが。」
「うるさいなー!なんでそんな口答えするんだ!普通お前ぐらいのやつは、何も言ってこないぞ」
(何を急に)
私は今、イライラしている。
この怒りが、老人に絡まれる恐怖よりも勝った。
多分それだけ。
天気で表せば、雷だ。
雨は振っていない、重い曇り空の中の雷。
「もう行きますね」
私はそう言って、走った。
(まだなんか言ってる)
背後から声を荒らげながら、アイツはなんか言っている。
少し行くと、急に見知らぬ、高齢の女性が
「若いわねぇ、あんな喧嘩腰で。空き缶ぐらい、捨てれば良かったのに」
(だから私じゃないんだって。)
「あれ、私じゃないんですよ、なんか言い掛かりで。」
「そうなの?ごめんね」
案外すんなり済んだ。
人の言葉に左右されやすいのだろう。
声を荒らげてキレてもいいが、近所だ。
なるべく、印象はよくいきたい。
私は、雷雲を抱えながら、家を目指した。
「雨音ちゃーん!」
私は咄嗟に振り向いた。
「雨音ちゃん!今帰り?一緒に帰ろ!」
晴美だった。私の雷は収まった。
「雨音ちゃん聞いて!なんか私さっき知らないおじいさんに、空き缶捨てただろって怒鳴られた」
(えっ)
「私じゃないです!って言って走ってきちゃった」
「もしかして、その缶、ぺしゃんこじゃなかった?多分コーラの」
「そう!なんで分かったの?」
「私もさっき、その人に怒られて、私じゃないのに。」
「えー!そうなの!?何してんだろあの人ー」
「分からない。さっきまですごくムカついてたけど、晴美のおかげで、どうでも良くなったな」
私は晴美の明るい声と、話しかけてくれたときの笑顔で、さっきのことなんかどうでも良くなった。
「私のおかげ?そんなんで済むなんて、雨音ちゃん優しいね!」
「ははは、ありがとう」
「あれ、私もどうでも良くなってきた」
「晴美も、優しいじゃん。」
「そうだね、私たち優しいなー」
私たちは、いつもの坂道まで向かった。
「雨音ちゃん、これあげる」
晴美は、私の好きな、コーラのラムネをくれた。
「ありがとう。じゃあこれ」
私は晴美に、ぶどう味のグミを渡した。
(たしか、晴美好きだったはず)
「ありがとう!これ好きなんだー」
「良かった」
「じゃあまた明日!」
「また明日」
私は家に向かって歩き出し、晴美も坂を登る。
私が家に入る前、晴美もこちらをみて、手を振ってくれた。私も、手を振る。
さっきまでは、私の中は、ゴロゴロと音を鳴らしていた。
しかし今は、気持ちのいい鳥の鳴き声すら聞こえてきそうな、雲ひとつない快晴だ。
「ただいまー」
私の顔は今、笑顔以外を知らない。