雨で霞む、その奥は
今日は休日。そして、雨だ。
家の中は、午前にも関わらず、電気が着いている。
今日は母も休みだ。
「なんでせっかくの休日に雨なのよー」
嘆いている。
「晴れてたら、なんかしたの?」
「別に予定は無かったけど、洗濯とか?」
「じゃあ、雨でもいいじゃん」
私は、いたずらにそんな事を言ってみる。
「そんないじわる言うなよー、気分だよ、気分。晴れと雨では気分が違うの。」
「ごめん、分かってた。」
「なんだそれ」
「散歩してくる。」
「はーい、雨の日に「散歩してくる」なんて、あんま聞かないけど。」
私は、傘と、いつものカバン、そして、今日はカメラを持って外へ出た。
私は今日、雨の中の景色を撮ってみたかった。
晴れている日の景色も好きだ、でも、雨の日はもっと好き。
傘に跳ねる雨の音、地面に落ちる雨音、私の好きな音に囲まれて、私は町を歩く。
まずは、雨に打たれ、無数の波紋を作る水溜まりを撮った。
スマホでは、中々上手く写らない。
空から降る雨を写すことも難しい。
だから私は、カメラを持ってきた。
次に、自分の傘を、内側から撮影した。
まだ明るい時間だと、傘が透けて、雨水が写る。
(綺麗、上出来)
自分でも、よく気がついたなと思う。
そんな風に、雨に飾られた日常を、撮り続けた。
すると、少し離れた森に目が付いた。
(…よし)
晴れていても中々行くことはない森、私は入ってみたくなった。
ちょうど肌の隠れる服なので、大丈夫だろう。
初めて入った森、土がジメジメしている。
雨の日が作る、特別な匂い、私はこの匂いが好きで、森の中だと、その匂いを、より一層強く感じる。
(ちょっと大変だな)
少し山になっている。
大変だけれど、私はこの先が気になった。
いつの間にか、写真よりも、この先の景色が目的になっていた。
私は、時々木々から覗く光が、気になった。
一度立ち止まって、よく覗いて見た。
(わあ…)
そこには、高所から見下ろすような形で、私の住む町が広がっていた。
雨だから、景色は霞んでいて、遠くまでは見えないけれど、
(晴れの日に観たら、もっと綺麗だろうな)
太陽がでていれば、もっと遠くまで見えていただろう。
青空に繋がるまで続きそうな景色を想像する。
(晴れたらまた来よう)
私は、木々の間から広がる景色を観て、ふと、あることを思い出した。
(なんだか、よいねちゃんが撮った渡り廊下に似ているな)
私はカメラを構えた。
額縁を意識して。
しっかり定めて、シャッターを切った。
「やっぱり、ちょっと霞んでるな」
そんなひとりごとがでた。
(これはこれで、雨の日の景色。素敵かも。)
また晴れたら来よう。
そんな約束を自分にし、先を目指した。
十分近く歩くと、住宅街に出てきた。
自然との境は、とても分かりやすかった。
少し奥の方に、なんだか見覚えのある建物。
私はその先を進んだ。
(やっぱり。)
マンションだった。
渡り廊下の目の前のマンションだ。
(ということは)
私は回り込み、渡り廊下からいつも見ている面に出てきた。
すると、目の前には、学校が。
フェンスの奥には、私の好きな、渡り廊下があった。
(すごいな、こんな所に繋がっているなんて)
私は、カメラを構え、景色を収めた。
なんだか、休日の同級生に会ったみたいだ。
この間は、渡り廊下から撮ったけれど、今日は、その反対側から。
私は大きな発見をした気持ちになって、いつもの通学路から家を目指した。
雨の中見つけた、見慣れた景色は、なんだか、別の顔をしていた。