雨、咲かせる(3)
彼女は、廊下の真ん中に立って、シャッターを切った。
私はてっきり、渡り廊下の塀側から、下を見下ろす構図で、撮るのかと思っていた。
「見せてもらってもいい?」
「はい」
私は、彼女の撮った写真を見てみた。
「わあ」
(すごい)
私は、思わずそんな腑抜けた声が出てしまった。
そこには、目の前のマンション、道路、右側に広がる、夕方に差し掛かる空が写っていた。
そして、ちょうど、渡り廊下の塀、柱、校舎の壁、天井が、四辺を作り、額縁のようになっていた。
そんな額縁に収まる、午後三時半前の日常。
「すごい。素敵な構図。額縁に収まっているみたいで、まさに、日常を切り取ったっていう感じ。」
日常ではあるものの、平凡ではない。
日常を、綺麗に、それでも大袈裟ではなく、切り取っている。
「ありのままの日常を、飾りすぎることなく切り取っていて、それでも、綺麗。すごい好きだな。」
(もっと上手に伝えたい…)
「ありがとうございます。」
「上手く言葉に出来ないけど、すごく素敵。」
私も、写真を撮った、塀から見下ろす感じの、私の好きな構図で。
この後も、渡り廊下から、向こう側の校舎を写したりもした。
よいねちゃんにも撮ってもらいながら、私たちは校舎の至る所で、シャッターを切った。
「そろそろ戻ろうか」
「はい。」
「どう?写真楽しかった?それか、趣味だったりするのかな?」
「スマホで撮るぐらいで、カメラで撮るのは、あまりやったことがないです。」
「そうなんだ、とても素敵な写真ばっかりだったよ。そんな写真が私のカメラに収まってるの、嬉しい。」
「ありがとうございます。」
部室に着いた。
「ああ、雨音ちゃんおかえり、そういえば、名前を聞き忘れてた、名前聞いてもいい?」
「かんだよいねです。一年二組です。」
「そうなのね、よろしく。」
「よいねちゃんにも、写真を撮ってもらいました。」
「そうなの!見てもいい?」
「はい。」
「わあ、素敵。特に渡り廊下のはすごい好き。」
「私もです。」
「額縁みたいになってて、すごく構図がおもしろい。額縁というので、飾ってはいるんだけれど、あくまで写しているのは日常。そんな日常を邪魔せず、むしろいいスパイスになっていて、素敵。」
(そうそう、こういうことを言いたかったんだ。)
「ありがとうございます。」
「じゃあ、今日は解散ね、また来週。」
「先生さようなら」
「はい、気をつけてね」
「よいねちゃん、帰ろうか」
「はい。」
私たちは、土間へむかった。
(あっそういえば)
「よいねちゃん、入部はまだだったね、もし入部するとき、来週また来て、そのとき登録しよう。」
「ありがとうございます、写真部、すごく楽しかったです。」
私と、彼女の家の方向は逆。
出ていく門が違うので、土間を出て解散だ。
「じゃあ、またね」
「さようなら」
(素敵な写真だったな)
もう暑くなってきている。
時間のわりに明るい空の中、私は家にむかった。