夏繋がる茜(3)
(明日、ちょっと聞いてみようかな)
「ただいまー」
「おかえりー」
「お母さん、高校どうしよう」
「あれ?この前北明日高校がいいって言ってなかった?」
「そうなんだけど、今日先生にあと2校ぐらい候補があるといいって言われた」
「あー、そうだよねぇ。」
多分、体験入学も、ほとんどのところがやっていないだろう。
確かに、北明日高は、体験入学に行ったというだけで志望校にしたけど、いい印象を持ったのは確かで、写真部に興味を持った気がする…
「そうだなぁ、最低条件とかはないの?例えば、絶対にトイレが綺麗じゃなきゃ嫌だ!とか」
「なにそれ」
「例えばだよ、なんかない?」
……極論というか、我儘を言えば、晴美がいるところ…
この前までは、晴美がいるからという理由には、納得できていなかった。それは自分で選んだ道とは思えないから。
でも今は、それでも…悪くないというか、1つの選択肢なのではないかと思ってしまう。
「私は図書室が広いってのが理由だったかなー」
「私は、晴美がいると…」
(だめだ)
口に出して、再確認した。
この決め方を、まだ私は、心の奥底で否定している。
「やっぱり、あの高校がいい。北明日高」
「…いいじゃん、そうしなよ」
「ありがとう」
先生に言われた残り2校は、とりあえず、写真部があるというだけで選ぶことにした。
正直、その2校に行きたいとは思わない。
―翌朝―
「行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい。気をつけてねー」
この坂を登って、今日も朝を迎えに行く。
私は昨日のお母さんとの会話で、決意することができた。
私にとっての「最低条件」それは、自分で決めること。自分で自分のことを考えて決めたところが最低条件だ。
「晴美がいるから」というのは、自分のためになりそうにない。
今後の選択を、自分以外を理由にしてしまう。
それは、私の進路と言えるのだろうか。
自分の欲望で決めたと言えるのだろうか。
そんな考えが芽生えた先の答えだ。
ピンポーン
「雨音ちゃんごめんねー!!すぐ行くから!」
ドタドタドタ
「おはよう!雨音ちゃん!いつもありがとう!」
季節外れの、明るい太陽だ。もちろん、私の大好きな
「雨音ちゃん、いつもありがとうね、気を付けてね」
「行ってきます」
「行ってきます!」
私は、晴美に高校を聞くのはやめた。
その答えがどうだろうと、私の決めたことに、変化は起きない。私が起こさないから。
今日は晴れ、快晴だ。
涼しく、心地のいい風が私を包む。
「いい天気だねー、しかも涼しい」
「そうだね」
「おおっ、やっぱちょっと寒いかも」
少し強めの風が吹いた
誰かが集めておいたのだろう。積まれた落ち葉が飛んでいってしまった。