夏繋がる茜(2)
「うお」
少し重めの扉を開けると、今度は音が耳に攻撃をはじめた。
私たちが着いた頃には、もう人が結構いて、どんな人が演奏しているのかは分からない。
でも、体が、音に揺られているのが分かる。
胸の当たりが、激しく鼓動を打ってている。
こんなにも爆音。人間の耳の強さを感じる。
晴美は…夢中になってる。
高校では楽器やるのかな…ドラム?ギター?ボーカル?ベース?
意外とどれも似合いそう。
「ありがとうございました!」
部屋を出て、来た方とは別の方向に歩き出した。
「凄かったねー、ここらへんがさ、ドンドンいってた」
晴美が胸の辺りを抑えてそう言った。
「そうだね、迫力あったよね」
「ギターかっこいいなー弾けるようになりたい」
軽音部の部屋から外へ出るまでに、写真が飾られている。
(写真部展示…)
「あ、晴美、私これ見たい」
「ん?ああ、いいよー」
校舎に貼り付けられた大きな時計、空っぽの教室、閉まった校門から外を写す写真。
この学校からの風景だろう。
(…これいい)
風が吹き込んだのだろうか、教室のカーテンが、大きく靡いているのを、かなり近い位置から撮っている。
(いいなぁ、カメラ持って撮ってみたい)
広い校舎だ、素材は、中学よりも多くあるだろう。
「ありがとう、いこうか」
その後は、テニス部をみたり、自販機でジュースを買ったりしてみて、お昼頃に帰った……
……「で、雨音ちゃん、志望校に北明日高校選んでくれたんだけど、他に行きたいとこあったりする?」
「他のところ…ここぐらいしか思い浮かばないです」
「そうかー、成績としては、挑戦できるし、もしかしたら推薦も貰えるかもしれない。」
「でもね、この高校に行きたいって言っている子が多くて、もしかしたら、推薦が貰えないこともあるんだ。保険じゃないけど、あと2校ぐらい、考えてみない?」
「あと2つ…」
「北明日高は私立だけど、公立からでも大丈夫。」
「部活でも、なんでもいいから、雨音ちゃんにとって魅力的な所を選ぶといいかも」
「はい」
「このパンフレットあげるから、ちょっと考えてみて、また今度三者懇談があるから、その時でも、それより前でも大丈夫。何かあったら教えてね」
「ありがとうございます」
「はーい、じゃあ次の人呼んできてー」
「ありがとうございましたー」
「中村さん、次だよ」
「うん、ありがとうー」
貰ったパンフレットをカバンに入れて、外へ向かった。
秋に乗る夕暮れの中、こんなことを考える。
…行きたい高校。正直、体験入学に行ったから書いた。それだけの理由。強いて言うなら、いい写真が撮れそう…とかだ。
(晴美はどこにするのかな…)
あんま進路の話が好きじゃないので、自分からはあまり聞かない。けど…
(明日、ちょっと聞いてみようかな)