アメがふる
「晴美ー、何してるの?」
昼ごはんを食べて、外へ出たら、坂の上に晴美がいたので、話しかけてみた。
今日は晴れ、風と太陽がバランスを取っていて、暖かな天気だ。
晴美が、うずくまって地面を見つめている。
「あれ、私は実験をしている」
そう言って、指をさした方を見ると、何やら黒い点が、列を作って動いている。
蟻だ。立ち上がって見てみると、1本の畝った線に見える。
「朝ね、飴を巣のそばに置いてみたの」
晴美の家の前の道の脇に、蟻の巣を見つけて、わざわざ家から飴玉を持ってきて、置いたらしい。
「最初はほんの数匹が来てね、でも運ばなかったの。でも、昼ご飯食べてから見てみたら、めちゃくちゃあつまってた」
「めちゃくちゃ群がってるじゃん」
真っ黒の塊にも見えるほどだ。
…でも、あんまり動いてない。
ずっと、飴にくっついている。
10分ほど過ぎただろうか。本当に、変化がない。
「ふぁー」
暇だと、本当にあくびが出ることがわかった。
「全然動かないね」
「ねー、そろそろ運んでくれてもいいのに」
「晴美ー何してるのー」
晴美のお母さんだ。
「あ、雨音ちゃんもいるじゃん!…?何見てるの?」
「うっ!蟻じゃん!なにしてんのよー」
「飴あげてみた」
「……私、戻るね」
「うん」
数分して、詩緒さんは戻っていった
晴美は、スマホを取り出して、何やら操作を始めた。
「……」
こんな小さな飴に、さらに小さな生き物が群がってる。
(この飴取り上げたらどうなるかな…)
ちょっとひどい発想だ。
「えー!蟻って、この飴2日ぐらいかけて運ぶらしいよ」
「あ、え?そんなかかるの」
どうやら調べものをしていたらしい。
「これ、今飴吸ってるらしいよー、ちょっとずつ持ってくんだって…あ、砂をかけることもあるらしい」
「へー、じゃあもっと時間かかるかもね」
「うん、また明日みてみよ」
「そうだね」
そう言って、一旦解散した。
―次の日―
…
一応、約束の朝10時
坂の上には、晴美の姿が。
答えは、ほぼ分かっている。
足を踏み出す度に、ピチャピチャと跳ねる音。
滝に打たれているような感覚。
1日が明け、今日は雨が降った。
坂の上の晴美は、昨日のようにうずくまってはいない。
「おはよう」
「おはよう」
「…飴は?」
「…まだ見てない」
「じゃあ、見に行こうか」
少し、大きな声で話した。雨音で、かき消されてしまうから。
「…」
結果は、案の定という感じ。昨日の位置に、飴はなかった。おまけに蟻も。
代わりに、雨が降った…なんて今は絶対言うべきではない。
「晴れたら、またやるよ」
「うん」
雨は、飴を連れ去ってしまった。