風物詩(2)
晴美とはクラスが違って、集合場所が違うので、ここで別れた。
「木村ーこっちー」
「雨音ちゃーん」
「おはよう」
影山くんと、藤田さんが呼んでくれた。
「木村は…ここ、中村の前ね」
「ありがとう」
室長や、パートリーダー、役割のある人は、早めに来ていたようだ。
「みなさんおはようございます!これから入場するので列はこのままで席に着いてください」
目の前の大きな両開きの扉が開いた。
ステージを向いた無数のイス。
まるで太陽を向いている向日葵のようだ。
もう3回目なのだけれど、意外と広いなと思ってしまう。
ここでの雰囲気も、好きだ。明確な理由はないけど。
「始まりまーす静かにー」
なだらかにこの広い空間が静まっていく。
校長先生だ。
この人が礼をすれば、私達も同じようにするように入れこまれている。
「今日はいよいよ本番ですね、結果を残すことも大事ですが、何より、楽しんでくれたらと思います。」
恒例の挨拶、去年もこんなだったか忘れたけど、似たような言葉だったのだろう。聞き馴染みがある。
「それから、保護者の皆様、お忙しい中、ありがとうございます…生徒たちは…」
そろそろ本番だ。
1か月ほど練習をしてきた。本番に実感が湧かなくとも、感じるものはある。
それから、音楽の先生の話もあって、1年生の合唱が始まった。
…♪…♪
(うま)
つい、1年生のころの私たちと比べてしまう。去年もそうだったけど、後輩の演奏が、自分たちより上手なのではないかと思ってしまう。
(あっ!宵音ちゃんのクラスだ………危ない)
手を振ってしまうところだった。
何歌うんだろう…
…♪…♩♫
(あ)
私が1年生の頃歌った曲だ。懐かしい。
2年くらい前のことが思い出される。
音楽って、その時のことを思い出させてくれる力がある。
まるで写真みたいに。
そんな風につくづく思う。
2年生の演奏も終わって、次は3年生だ。
演奏する学年の変わり目で、休み時間がある。
始まる前のほんの数分の休憩時間で、ロビーで少しだけ合わせるらしい。
「みんな来た?やるよ」
指揮者が合図をした。
…♪…♪
(おお、ピアノが無くても、曲みたい。)
「はい、みなさん、何より楽しんで、頑張りましょう!」
「うい、頑張ろー」
「正直勝ちでしょ」
他のクラスも、円陣を組んだりしている。
「雨音ちゃん、緊張してきた」
「ホント?大丈夫だよ、藤田さん、凄く音楽会のこと考えてくれて、行動もしてくれてたから、大丈夫。そのおかげで私は自信しかないよ」
「ははは、ありがとうー」
席に戻った
まずは、晴美のクラス。
今度は、手を振らないように気をつけた。
やっぱり、上手い。
晴美が歌の練習期間、たまに残っていたのは、パートみんなで練習の仕方を毎度確認していたかららしい。
それぞれが、それぞれに合った練習をしてきている。
次のクラスも終わって、私たちのクラスになった。
「ここからは声が響いちゃうので、話さないようにー」
ただ、足音だけが響く。
(おお、明るい)
舞台の上は、意外にも明るい。
私たちが整列を始めると同時に、アナウンスが入った。
「3年2組の演奏です」