風物詩
「いってきまーす」
「はい、気をつけてねー。また後で行くからー」
今日は晴れ、快晴だ。そして、いつもより早い朝。
今日はこの後、音楽会だ。
少し離れたところに、電車で向かうのだが、例に漏れず、晴美は決めた時間に来ていないので、呼びに行くことにする。
いつもより寝ぼけた町。
私もまだ夢の余韻が残っているから、ちょうどいい空気だ。
そんなことを感じながら、いつもの坂を登る。
ピンポーン
「晴美ー急いでー!」
ガチャ
「ごめんねー雨音ちゃん、すぐ行くから」
晴美のお母さん、いつもに比べて、朝の残る姿だ。
2分ほどたっただろうか。晴美が出てきた。
「ごめんー雨音ちゃん、中々起きれなくて」
「いいよ、じゃあ行こうか」
「ホントごめんねーいつもありがとう。行ってらっしゃい。後で行くね」
「いってきまーす」
「行ってきます」
集合時間には、全然間に合う時間だ。
まだ寝覚めたばかりの町を感じながら向かおう。
「もう音楽会かー早いなー」
「そうだね」
「しかも最後でしょ?実感ないなー」
駅についた。
辺りには、同じ制服を来た人が沢山。
この学校以外の人の方が少ないぐらいだ。
「あっ、あれ宵音ちゃんじゃない?」
「ホントだ」
誰かを待っているみたいだ。
「おはよう宵音ちゃん」
「あ!雨音ちゃんと晴美ちゃん!おはよー」
「友達と行くの?」
「うん!」
「じゃあまた後でねー」
「うん、また!」
改札を通って、ホームに着いた。
地下鉄の匂い。
制服の姿で、こんな朝早くから。新鮮だ。
(来年は、毎日こんな風なのかな…)
ちょっど電車が行った頃だろうか。
静かになった駅のホーム、誰も言葉を発しない。
そんな静寂が、こんな寂しい事を思わせた。
「1番線…方面、…行きが参ります。黄色い線の内側まで、お下がりください。」
ちょうど2人分空いていたので座った。
ここから、3駅程先。
スマホは持っていけないので、暇な時間だ。
こういうとき、あんまり良くないかもしれないけど、私は人間観察をしてしまう。
今この車内は…スマホを見ていたり、寝ている人、だいたいが、こんな感じ。
(あの人、休めてないんだろうな…)
私たちの宿題のプリントぐらいの大きさの紙を、眠たそうな目で見ている。
そのすぐ隣の人は、仰け反るようにして、顔を上に向けて、口を開けて寝ている。
(大人って、やっぱり大変なのかな…)
あの人は、大学生かな。
確かこの辺りに大学があったから、次の駅で降りそう。
「次は…、…」
(あっ、降りた)
予想が当たっていたからといって、どうにもならないけれど、少し嬉しい。
買い物の会計が、キリのいい数字だった、そのぐらいの嬉しさ。
その次の駅も過ぎて、次はいよいよ降りる駅。
「次は…、…公会堂へお越しの方は、ここでお降り下さい」
「降りようか…あ」
(寝てる…)
「晴美、降りるよ、」
肩を優しめに揺らしながら起こす。
「んあ、もう降りるの?ありがとう」
「あぶねー、乗り過ごすとこだったありがとう」
「よく寝れたね、ほんの数駅なのに」
「朝早くてさー気づいたら」
改札を出た。
「あっ!先生だ!」
「おはようございまーす」
「おはよう、この階段登ってねー」
「はーい」
そうそう、この階段だ。
なぜだか分からないけれど、ここには染み付いた感覚が残っていて、私はそれが好きだ。
毎年秋にここに来るからだろう。
それが何よりも、私に秋を感じさせる。
地上へ出てきた。
家を出た時よりも、少し進んだ朝。
冷たい風が吹いた。
音楽会はブレザーを絶対着なくてはいけないので、ちょうどいいくらいだ。
「おはようー」
去年私の担任だった村田先生だ。
「おはようございます」
「3年生は入って2階ねー」
「ありがとうございます」
「じゃあまた後でねー」
「またねー」
晴美とはクラスが違って、集合場所が違うので、ここで別れた。