雨嵐
今日も雨、普段なら、私の気持ちは、外の天気に逆らって快晴のはずなのだが…
今の私は、嵐と言ってもいいだろう。
ついさっき、嵐はやってきた。
いつも通りの1日が過ぎ、雨の中、私はご機嫌で帰ってきた。
ちょうど手洗いを始めた頃、鏡の中で、黒くうごめく物が目に入った。
すぐにある1つの予感が浮かんだ。
恐る恐る振り向くと…的中だった。
家に出る、黒く動く楕円形の生き物。
私は大抵の虫が家に出れば退治してしまうが、ヤツは例外だ。
素早いし、すぐに隠れる。何より気持ちが悪い。
気づかれないように、スプレーを取りに行こう。
私は敵から目を離さずに、スプレーのある玄関まで向かった。
(ちくしょう…なんなんだアイツは…)
木の生い茂る自然で暮らしてくれ…見るところ、幼虫とかではなく、成虫だろう。
私もヤツが嫌いだけど、お母さんはもっと嫌いだ。
お母さんが帰る前にやらないと…
スプレーを片手に、戦場に戻る。
(こういうのは、素早さが大事…え)
敵が戦闘態勢を変えた。
先程までは壁にいたのに、今は天井だ。
「スプレーかけたら落ちて来るじゃん」
ゴキブリ 天井 どうする
こいうときは、とりあえず検索。現代人の性だ。
……あ!虫取り網…?
(天才だ)
虫取り網の中に落ちたところを、スプレーで苦しめるという方法。今度はなるべく早足で虫取り網を取りに行った。
小さい頃使ったやつだ。ただ蝶々を入れて楽しんでただけだけど…
「よし」
今度はちゃんと天井にいる。
こういうのは素早さが大事…
「〇ねー!あっ!?ちょっと待って!」
隙間から逃げ出した。
持ち手側から空いた隙間から。
「こっちくるなー!」
シューーー
咄嗟にスプレーを浴びせる
(うわ!落ちてきた…)
(……)
床に落ち、裏返って、アタフタしている。
シューーーーーーー
追撃しながら、気持ち悪いなと思いつつ、どこか思っているより弱い存在だなと思った。
裏返ってしまえば、為す術がほとんどない。
スプレーでただ苦しめられるのみ。
まもなく、動かなくなってしまった。
動かなくなったけど、とりあえず追い討ちしといて、ちりとりで持ちあげた。
「…なんか、ごめんね」
ちょっと、可哀想に思えてきた。散々なことをやっておいて、身勝手だけど。
私の好きな雨の中、家の外の道に置いてきた。
ガチャ
手には、空になったちりとりと、スプレー。
(…)
強い雨が、ザーザーと、玄関に響く。
外は大雨、私の嵐は去って、今は、少し青空の覗く、曇り空だ。
リビングの明るみに戻る。雨音をBGMに、夕方のニュースをテレビは見せている。
なんだか、どっと疲れがやってきた。
「明日からは、晴れが続くようです」