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【完結済】最強無敵の守護竜に転生したけど世話焼きお姫様(32歳未亡人)がウザすぎる!  作者: 川平直
終章

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83話 兄さん

           *


 真っ向から戦ったところで勝てねえ事は分かりきっていた。


 スバル女王の聖痕を取り込んだデインの守護竜の力は絶大で、いくら覚醒体になった俺でもやつに魔導で攻撃すれば主導権を奪われ無効化されることは目に見えてる。


 でも、魔導が全く使えなくなるかと言われればそうでもない、自分の周辺、極々狭い範囲であればギリギリやつの影響を受けず行使出来る、なら戦い方はある。


 俺は巨大な火球をデインの守護竜へと放つ、奴は当然当たる前にそれを無力かするが、それでも構わずありとあらゆる魔導を叩き付けた。


 大地を突き上げ、雷撃を奔らせ、氷山を落とし、嵐を巻き上げる。


 当然奴はその全てを無力化し、ダメージを与えることは出来なかったがそれでいい。


 派手な魔導はただの目くらまし、俺は隙を付いて奴の死角から一気に距離を詰めその勢いのままに体当たりをたたき込む。


「ぐぅ」


 奴から小さく苦悶の声が漏れる。


 思った通り物理的なダメージは通る、とはいえ決して致命的なものじゃない。


 奴が即座に反撃の気配を見せるが、行動に移られるよりも早く俺は距離を取りまた目くらましの魔導を放つ。


 ネネイルの守護竜であるアカネに付き合わされた遊びで身につけた重力操作による飛ぶのではなく落ちる飛行術。それによって産まれるスピードに奴はついて行けてない。


 時折一撃必殺と思えるような魔導が体を掠めて肝を冷やす。


 足を止めれば圧倒的な火力の魔導が飛んでくる、だからとにかく動き回って的を絞らせず目くらましを繰り返しながら隙を突いての攻撃を繰り返す。


 機動力にものを言わせたヒットアンドウェイ、どれだけ通用するか未知数だったが蓋を開けてみれば、思った以上にデインの守護竜を翻弄し戦いを有利に進める事が出来ていた。


 というか、ひょっとしてこいつ――。


「お前、実はそんなに喧嘩したことねぇだろ」


 挑発をかねて一撃入れるついでにそう言ってやると、奴は何も言い返しこそしなかったが僅かにムッとするような気配を見せた。


「ハッ! 図星かよ、口では散々えらそうな事(うそぶ)いておいて、その実中身は喧嘩もろくにしたこともねぇお坊ちゃんとはお笑いぐさだな!」


 挑発を繰り返しながらも攻撃を繰り返す、一回一回は大した事ないがそれでも着実にダメージを与えている手応えはある。


 油断はしない、このまま何もさせないまま押し切るッ!


「……そうだよ、喧嘩なんてしたことなかったさ、あんたと違ってね」


 ぽつりとそんな意味深な事をつぶやくが、その言葉の意図を聞く暇も無く奴は翼腕を羽ばたかせふわりと高く浮かび上がった。


 何かしてくるのかと、俺はとっさに臨戦体制を取るが。


「これじゃ足りないな」


 そう言って奴はくるりと踵を返して飛び去っていってしまった。


 逃げた? いやそれはないだろう、でもなら何のために?


 突然の不可解な行動に思考を巡らせる。


 奴はどこに向かってる? 飛んでいった先にあるのは何だ? 足りないって一体何が?


「……ッ! まさかあの野郎!」


 速攻で奴の後を追う。


 奴が向かう先にいる人物、それを見た瞬間俺の頭に浮かんだ恐ろしい推測が間違っていなかった事を確信する。


「よせっ!」


 叫ぶが制止の言葉じゃ奴は止まらなかった。


 飛ぶ速度は俺の方が速いが、出遅れたのが致命的だった、追いつけない。


 奴が向かったのはデイン帝国側の本陣、守護竜の飛来にその場にいた兵士達は蜘蛛の子を散らすように逃げだしたが、その中でただ一人その場から微動だにせず立ち続ける小さな人影があった。


 金色の髪に大きく愛らしいエメラルドグリーンの瞳、その小さな体には不釣り合いな豪奢で煌びやかな漆黒のドレスを身にまとった少女。


 デイン・エリザリンデ、デイン帝国の女帝にして姫さんと同じ守護竜の巫女。


 奴は俺が追いつくよりも早くエリザの元にたどり着き、彼女の目前へと降り立った。


「わかっておりますわ、にい様」


 エリザは逃げるそぶりも見せず、何かを受け入れる様に静かに両手を広げて。


「さぁどうぞ、美味しく召し上がってくださいまし」


 舌足らずな少女の声ごと巨大な黒翼がすっぽりと覆い隠し、女性の悲鳴のような甲高く禍々しい詠唱アリアが響き渡る。


 奴の体が紅く輝き、血の様な色をしたその光が脈動の様なリズムを刻む。


 光が消え黒い翼が開かれると、そこに少女の姿はすでにない。


「……力を取り込むことさえ出来れば巫女がいなくとも存在を保てる事は、ネネイルの守護竜を見てわかってたんだ」


 胸元の周囲にしかなかった赤い光の筋が奴の全身をくまなく被い、その額にはネネイルの女王から奪ったものとは違うもう一つの聖痕が浮かぶ。


「でも万が一って事も無いとはいえないだろう? でも結果的にそれは杞憂でしか無かったみたいだ、こんな事なら最初からこうしておけばよかった」


「お前、自分のパートナーまで」


 胸くそが悪い。


 それがどういった感情から来るものなのかは判然としない、ただ怒りとも恐怖とも違うなんだか得体の知れない不快感がこみ上げる。


 目の前で起きた所業に俺が言葉を失っていたその時、突然奴に変化が起きた。


 苦しそうにうめき始めたかと思うとベキベキ、メリメリと何かがきしむような不気味な音が奴の体から聞こえ出す。


 奴の翼腕が膨張し翼と言うよりも人の腕に近い何かへと変化していく、背中から一対の新たな翼が飛び出す。


 歪でまがまがしい何かへとやつの体が作りかえられていく。


「ククッ、あはははははははあはははあはははははははあははははははははははははははははあはははははははははははははははははははははははは!」


 きっと悪魔ってのが本当にいたとするならこんな姿をしているんだろう、変わり果てた奴は狂ったように笑う。


「すごいな! すごいよ! ネネイルの女王を取り込んだとき以上だ! 今なら何でも出来そうな気がする、こういうのを神様にでもなったような気分っていうのかな! これだけの力があれば僕だって自由になれるあんたみたいに! ねぇ――」


 兄さん。


 奴の口がそう言った様に見えた。

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