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最強無敵の守護竜に転生したけど世話焼きお姫様(32歳未亡人)がウザすぎる!  作者: 川平直
第5章

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66話 その少女は

           *


 その少女は病弱だった。


 生まれた時から人よりも免疫が弱く風邪を引いただけでも命に関わる、そういう体質だった。


 だから必然的に少女はそのほとんどの時間を病室の中で過ごした。


 何度も洗われて少しパサついたリネンが掛けれたベットに、殺菌されてどこか生命力が希薄の様に感じる部屋の窓から見える景色だけが彼女の世界だった。


 気軽に外で遊ぶ事も出来ない様な生活だったが、少女はその分たくさん本を読んだ。


 とにかく本を読むこと正確には本を読んで何かを知るということが大好きだった、不自由な現実の中でもその時だけは自由になれる気がした。


 不憫な生活を強いてしまっている事に心を痛めていた両親はそんな彼女にありとあらゆる本を読ませてあげた。


 絵本や小説、漫画や図鑑、果てには専門的な技術書から論文書に至るまで、興味を持った物は片っ端から用意し、そしてその全てを少女は喜んで読破していった。


 そのおかげもあって学校に通う同年代の子供達よりも、ともすればその辺の大人なんかよりもずっとずっと多くの知識と知恵を少女は手に入れていた。


 いつか元気になったらなにをしよう? あれもしたいこれもしたい、将来はあれになりたいこれになりたい。


 まともに病室から出ることもかなわない不自由な生活の中でも、少女は前向きでいつも夢と希望にあふれていた。


 しかし本を読みながら毎日のように夢想していたその夢は何一つとして叶うことはなかった。


 ある日、少女はつまらない病気に罹り、そしてそのまま目を覚ますことはなかった。


 悔しかった。


 やりたいことがたくさんあったのに、何一つとして出来ないまま終わってしまうことが悔しくて悲しくて。


 そんな無念の中で少女はその生涯を終えた。


 ……気がつくと、少女は暗闇の中にいた。


 ぼんやりとした意識の中で、自分の事を呼ぶ声へ導かれる様に暗闇を突き破ると、そこには見知らぬ少女がいた。


 褐色の肌に尖った大きな耳、髪と同じ色をした朱色の瞳をどこか不安げに揺らすかわいい女の子。


 その姿はまるで本の中の登場人物みたいだった。


「は、初めまして。ボク、じゃない、わたしはスバル。守護竜の巫女として今日からあ、貴方様にお仕えさせていただくものでです」


 目の前にいるその子のガチガチに緊張した自己紹介らしきものを未だに少しぼんやりする頭で聞きながら、少女は――いや少女だった彼女は何気なく自分の姿を見下ろした。


 そこにあったのは不健康に痩せ細った体ではなく、朱色の鱗と毛皮に覆われた自身の姿。


「……守護竜様? どうかなさったんですか?」


 不安そうに朱色の瞳を揺らしながら女の子が訪ねてくる。


 驚きもある、動揺もある、困惑も不安も恐怖だって少しある。


 ただそれ以上に、今までベッドの上で夢想するしかなかった物語の様な現実に心が躍った。


「守護竜様ってあたしのこと? そんな堅苦しい呼び名は好きじゃない、もっとかわいいのにしてよ。そうね……」


 少し考えたが、その答えはすぐに出た。


 前に本で見た、今の自分、そして今ここにいるこの子の髪と瞳の色によく似た色の名前。


「アカネ。そうアカネって読んで、そっちの方があたしはずっと好き」


 そうして少女は、ネネイルの守護竜アカネとなった。


 文字通り生まれ変わったアカネの体はもう病弱だったあの頃とは違う。


 活力にみなぎり魔導という不思議な力で、ただ思うだけでなんだって出来た。


 巫女であるスバルは引っ込み思案な気質はあったが好奇心旺盛で頑張り屋で、アカネの話をいつも楽しそう聞いて興味を持ってくれた。


 病弱だった頃は両親以外の誰かと一緒に遊ぶだなんて考えられなかったアカネにとって、スバルは初めての友達になった。


 あの頃には出来なかった、自分には一生無理かもしれないと思っていた事が出来る、そしてそれを分かち合う友達がいる。


 もうそれが楽しくて嬉しくてしょうがなかった。


 全部やろう、したいことやりたいことあの頃にはできなかったこと全部。


 我慢や遠慮なんてしない、あの頃ベットの上で本を読みながら夢想したしたことを現実にしよう。


 ねぇスバル次は一体なにをしましょうか?


 あたしやりたいことがまだまだ数え切れないくらいたくさんあるの――。

 

          *


「……フィロール一行には逃げられちゃったか」


 力の流入の影響でハイになっていたテンションも落ち着き、どこか達観したような様子でアンヌ達が飛び去っていた方角へ視線を向けながらデインの守護竜はつぶやく。


 あわよくばこの場でフィロールの巫女も取り込んでしまうつもりだったが、それは失敗に終わってしまった。


「まぁいいか、楽しみはもう少し後までとって置いて、今日の所は帰るとしようかエリザ」


「……はい兄様」


 自身の背に乗るエリザに声を掛けながらデインの守護竜は翼を広げ空へと浮上するが、ふと周りに視線を巡らせる。


 近くにいたはずのライレイの姿が見えない、さっきの爆発で消し飛ばしてしまっみたいだ。


 まぁ今となってはそんなことはどうでもいいことだった、無事にネネイルの巫女を取り込むことが出来た時点ですでに用はない。


 自身の力で崩壊させた景色をそして目の前に倒れ動かなくなった()()を冷めた目で見下ろして

、デインの守護竜は空へと飛び去っていった。


 デイン帝国からの宣戦布告がフィロール王国への宣戦布告が届けられたのは、その僅かニ日後の事だった。

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