59話 他人にどれだけ飾り付けられようと
✣
姫さん達を追って首都へと向かう道中、どこからともなく爆音が響いた。
「なんの音だ?」
「いえ、ボクにも」
思わずスバル女王と互いに顔を見合わせるがお互いにこの音の正体に心当たりはない。
そうしている間にも音が断続的に響いて、それを聞くたびに胸の内でいやな予感が積もっていく様だった。
「あ~~もうっ! 次から次へと何だってのよ!」
港から俺達に付いてきたルリルが苛立ち紛れに叫ぶがそんなことを言われたところで説明出来るやつなんてこの場にはいない。
俺達は先を急ぐが、進めば進むだけ音は大きくクリアになってその内何かが燃えているような匂いが進む先から漂ってくる。
そうしてようやく目的地だったネネイルの首都へたどり着く。
美しく鮮麗されていた町は破壊され、道路には瓦礫が転がり、家々から煙が上がり、人々の悲鳴や怒号がどこからともなく響く。
向こうの世界にいた頃、テレビやネットで紛争地帯の国や町の光景を見たことはあるただそれは所詮映像でしかなかったんだと痛感する。
死の気配と匂いがあたりに立ち込めているようなその光景に戦きそうになるが、そんな軟派な心に活を入れ俺は目の前の現実をにらみつける。
だが何時までも怖じ気づいてなんぞいられない、この渦中に姫さんはいるかもしれないこんなところでグズグズしてはいられない。
「スバル女王、姫さん達がいきそうなところに心当たりとかは? ……女王?」
返事がないんで振り返ってみるとスバル女王は茫然自失の表情で立ち尽くしていた。
「街が……どうしてこんな……」
「おい、女王! スバル女王! 一体どうしたってんだよ急に」
俺が呼びかけるとスバル女王がようやくハッとした様子で俺に向けたその瞳は不安で揺れていた。
「すみません、こんなことになっているなんて思っていなかったから。ボ、ボクはどうすればいいんでしょうか?」
「どうすればって、俺に聞かれても――」
その時、爆発音とそれに続くように誰かの悲鳴がどこから響く。
その悲鳴にスバル女王は耳を塞ぎその場にかがみ込んでしまった。
「アカネどこにいるの? アカネがいないとボクは……」
この場の空気に呑まれ完全に怯えてしまっている。自分が住んでいた街がいきなりこんな状態になってしまったのだから無理ないかもしれんが。
「もういいじゃない。そんなザコ放っておいて、女王サマ達を探しに行くわよ、ザコトカゲ」
ルリルがそう言ってスバル女王を切って捨てる。
「ホンッッットがっかり! さっきはルリルに向かって勇気がなんだって講釈垂れといて自分はとんだザコ女王じゃない」
そのあんまりな言い方に俺は顔をしかめるが、ルリルはいつもの様にふんっと不機嫌鼻をならしてそっぽを向いてしまった。
口の悪さは俺も人のこと言えたもんじゃないが。まったく、発破かけてぇならもっと上手くやれ。
「悪いな女王、あいつは人を煽る事でしかコミケーションのとれないガキなんだよ」
「ちょっと、それどういう意味よザコトカゲ! ルリルはただ正直に、キャウッ」
「あいつはああ言ってるけど、あのときの言葉何も口から出任せって訳じゃないんだろ」
何やらぐだぐだ言い訳し始めたルリルをいつもの魔導で黙らせてから、俺は今も蹲っているスバル女王に話しかける。
この国を外の世界に広げたいと語って見せたスバルに何か強い意志を感じた、あの時の言葉がその場を取り繕うための方便だったとは俺には思えなかった。
「精唱祭。俺ああ言うのは初めて見たけどすっげぇかっこ良かったぜ、正直見惚れたよ」
「あれは……あの時はアカネが一緒にいてくれたから。ボク一人じゃなにも」
「それでも、あのステージに立ってたのはあんただろ」
スバル女王は自分の事をアカネに飾り付けられたお飾りの女王だと言っていた、多分それは事実なんだろう。
でも例えそうだとしても。
「他人にどれだけ飾り付けられようとそれだけで何でも出来る訳じゃねぇ……元の世界にいた頃の俺がそうだったからな」
「……守護竜様が?」
「ああそうよ。両親は俺を必死で飾り付けようとしてたけどな」
他人に望まれたからってその通りなれるとは限らない。
今思えば、自分たちにふさわしい理想の息子になるように両親達は必死に努力していた、塾に行かせたり家庭教師を付けてみたり、服装や行儀についてもあれこれ口うるさいくらい言われた。
ただ両親達がどれだけ飾り付けても、結局俺は死ぬまでその飾りにふさわしい人間になることは出来なかった。
でもスバル女王はそうじゃない。
あの時、会場を埋め尽くす数えるのも馬鹿らしくなるような多くの人達を熱狂させ魅了していたのは彼女自身だ。
たとえそれがこの国の守護竜であるアカネに飾り付けられた物であろうとその事実は変わらない。
「スバル女王、別にこれ以上俺達に付き合う必要派ねぇよ。でも、あんたはこの国の女王だ、今ここであんたにしか出来ねぇことがあるんじゃねぇのか?」
「ボクにしか出来ないこと……」
「ああ。まっ! それが何なのか学のねぇ俺には分っかんねぇけどさ。ああクソッ痒いな畜生!」
らしくもなく説教じみたことを言っちまって体が痒くて仕方ない、らしくもない事をやるもんじゃない。
「おいこらクソガキ。何時までも小便我慢してもじもじしてないでさっさと行くぞ」
「あんたのせいだッ!」
しょうもないやりとりでいつもの調子を取り戻したところで、俺とルリルの二人で姫さんと合流するため動くことにする。
正直スバル女王を置いていくのは不安ではあるが何時までもここで足踏みしてる訳にもいかねぇ。
こんな有様だが一応ここは彼女の住んでいた街だ助けを呼ぶ方法くらいあるだろう、だからきっと大丈夫だろう。
そんな理屈を自分に言い聞かせながら、スバル女王を置いてその場を立ち去ろうとして。
パンッ!
突然聞こえたその音に俺が思わず視線を向けると、それはスバル女王が自信の頬を叩いた音だった。
「――――」
頬を赤く腫らしながらスバル女王が詠唱を口ずさみ、大きく息を吸う。
「オレの妖精さん達! この声が聞こえるかい!」
直前に口ずさんだ詠唱の魔導の力かその声は大きくはっきりと辺りの空気を震わせる。
「遅くなってごめん。この声が聞こえてた人は落ち着いて避難を。大丈夫オレがなんとかしてみせるから、だから今は落ち着いて避難を」
国民へ指示を飛ばすその姿にはさっきまでのどこか自信のない様子はどこにもない。
そこにあるのは確かに一国の主として責務を果たそうとする女王の姿だった。
「オレはこの国女王だから。それに――」
スバル女王の視線がルリルを見る。
「君の言うとおり、あんなことを言ったんだ。ボクも勇気を出さなくちゃね」
その言葉を受けてルリルはいつものように不機嫌そうにフンッと鼻を鳴らしてく答えた。
全くもう少し素直にしてればかわいげもあるっていうのに。
――ッ!
その時チリッと火花がはねる様な感覚が首筋に走った。




