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最強無敵の守護竜に転生したけど世話焼きお姫様(32歳未亡人)がウザすぎる!  作者: 川平直
第5章

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57話 いいことを教えてあげましょうか?

                      ✣


「アカネ様、アンヌ様こちらです」


 港から離れた森の中をアンヌ達は歩いていた。


 敵の待ち伏せやトラップを警戒して身を隠しつつ、スバルとアカネの従者であるライレイが先行し殿にセリスを置いて警戒しながら森の中を進む。


「あの子達の事が心配?」


 アンヌに、その隣を飛ぶアカネが問いかける。


「ごめんなさいアカネ様、ただどうしても……」


 本音を言えば今すぐにでも守護竜の事を探しに行きたかった、ルリルの事をあの場に置いていきたくなかった。


 ただそれでも今こうしていられるのは他国の要人であるアカネがそばにいたからだ。一国の女王としての使命感と理性がどうにか彼女をこの場にとどめている。


 ただ理性で体を律する事はできても心まではそうはいかない、事実アンヌはさっきから足を止める事こそしないが何度も何度も後ろを振り帰っていた。


「別に謝らないで責めたい訳じゃないの、気持ちは分からないでもないし」


 端的だが励ますようなその言葉にアカネの言葉少しだけアンヌの心が軽くなる。


 守護竜と同様にネネイル女王であるスバルもあの場から姿を消している、アカネも彼女の事が心配でない訳がない。


 自分だけが何時までもくよくよしている訳にはいかないとアンヌは内心で気合いを入れ直す。


 そのことを表情で察したアカネは小さく微笑みながら視線を前へと向け先導して先を進む自身の従者へと声を掛ける。


「ねぇ、ライレイ」


「はい、何でございますか? アカネ様」


「貴方、スバル達をどこへやったの?」


 まるで世間話でもするみたいに軽く掛けられた、あまりに唐突なその言葉にピタりと一行の足が止まった。


「な、何をおっしゃるのですかアカネ様。ワタクシなぞになんでスバル様の居場所を」


 言いながら振り返るライレイはいつものように気弱だが人の良さそうな表情を浮かべている。


 突然の発言に驚きアカネを見るアンヌだったが、彼女はただ淡々と言葉を並べていく。


「転移魔導は今あたしが研究してるものよ。それを知っている人間は限られてる。それにスバルが消えたあのとき貴方スバルのすぐそばにいたでしょう」


「そんな、それだけの事で。何か証拠や根拠はおありなのですか?」


「ない。でもたとえなんであれ貴方はここで拘束する。それで知ってることを話してもらうわ、万が一本当に無関係だったら、そのときは謝ってあげる」


 いっそ清々しいほどの横暴なその発言、だがそれ故にその言葉が冗談などではなくアカネが本気でそうするつもりであるという意思が感じられた。


 二人のやりとりをアンヌは見守る事ができなかったが、そのときふっとライレイから感じる雰囲気が変わる。


「はぁ……まぁ欺し通せるとは思っていませんでしたが」


「あら、ずいぶんと潔いのね」


「ええ、何を言ったところで無駄の用でしたので。でもどうして今になって? 港にいた時点でお気づきになられていたのでしょう? ならなぜあの場でワタクシめを引っ捕らえなかったのです。是非教えていただけませんか? でないとワタクシ気になって気になって夜も眠れません」


 ライレイからさっきまでの気弱な雰囲気は消え失せていた、その目はどこか虚ろで何を見ているのか分からない。


 控えていたセリスが静かにアンヌをかばうように前に出る。


「あの場は混乱していたから。問い詰めたところでどさくさ紛れに逃げられたら面倒だと思ってただそれだけよ」


「なるほどなるほど、実にアカネ様らしいお考えで」


「次はこっちの番。もう一度聞くわ、スバル達をどこへやったの?」


「それは、申し訳ありませんがお答えする事ができません」


「あっそ、なら話したくなるようにしてあげる」


 まるで帯電でもするようにアカネの周囲に赤色の稲妻が走り弾けたかと思った次の瞬間、一閃、雷がライレイへ向かう。


 しかしアカネから放たれた赤い雷はライレイに届くよりも早く、その勢いをなくし空気へ溶けていくように霧散してしまった。


 それはアカネ自信も予見していたものではなかったのか、その表情にわずかに驚きが浮かんだ。


「いくらなんでも、守護竜である貴方様を相手にしようと言うのに、何の対策もしていない訳がないでしょう」


 そう言ってライレイは手のひらサイズほどの懐中時計のような何かを取り出して見せる。


「この魔導具は魔素(マナ)を吸収消費することで約半径十メートルの魔素濃度を著しく低下させる事ができる代物です。空気のない場所では火が燃える事はできない様に、いくら貴方様といえど、元となる魔素がなければ魔導を使う事はできません」


「ならば、あなた自身も魔導を使うことができないのでは?」


 言うが早いかセリスがライレイへ向けて駆ける。


 しかしその手がと届くよりも早く、ライレイは吸魔機を持つ手とは逆の手でまた何かを取り出して構える。


「止まって!」


 いち早くその正体に気がついたアカネの声にセリスが制止した途端、爆音がさく裂しその足下の地面が突然小さく弾けた。


「そう、確かにその通りでございます。だからこういうものも用意してあるんです」


 ライレイが構える何か、白く細い煙を空へと伸ばすその先端がセリスへ向かって向けられている。


 この世界で暮らすアンヌやセリスが初めて目にしたものだったが、異世界の転生者であるアカネにはそれがすぐになんなの理解できた。


 鉄の筒に取っ手を付けたようなその道具、それは明らかに拳銃だった。


「驚いた、一体どこでそんなものを? あたしはそんな物騒なもの作った覚えはないけど」


「魔導や異世界の技術を研究しているのはネネイル(われわれ)だけではないという事です。非力なワタクシでもこれさえあればあなたたちを押さえておくこと位はできる。ほら、例えばこうやって」


 そう言ってライレイは銃口をアンヌへと向け、すかさずセリスがその間に割って入る。


「そうそれでいい、どうかそのまま動かないでいただきたい」


 右手には吸魔機を携え、左手には銃を油断なく構えながらライレイがその場にいる全員へ視線を走らせ、動けば打つと言外に語る。


「……それで? ここからどうする気なのかしら? まさか日が暮れるまでこうしているつもり?」


「はい、その通り。ワタクシの目的は女王と守護竜の分断、そしてその足止めなので。ですから出来れば余計な事はせずこのままお付き合いください、ワタクシとしても無暗にあなた方を傷つけたくはありませんから」


「これだけの事をしておいてよくもまぁ」


 完全な膠着状態。お互い迂闊に動けば相手へ隙をさらすことになる、だからお互いに唯一動かすことの出来る口だけを動かし言葉を交わす。


 軽口をたたきながらもそれでもその目はお互いを油断なく見つめている。


「それにしても、予想外だったわ。ライレイ、貴方が保守派の連中に協力するなんてね。誰よりも勉強家で魔導の研究に熱心だった貴方が。一体どんな了見なのかしら」


「保守派……保守派ですか。まぁ結果として彼らに協力する形にはなりましたが、ワタクシにとって彼らの理想や理念など塵芥ほどの興味もありませんよ、いえむしろ嫌悪しているといってもいい」


「へぇだったら何でこんなことをするわけ? 意味が分からないわね」


「いいえ、貴方は分かるはずです。ワタクシの行動原理はただ一つ“()()()()”のですよ! ただひたすらに」


 徐々に饒舌になっていくライレイの口調。それに比例するように瞳には狂気の灯がともりその熱が増していく。


「アカネ様、貴方の話す異世界の叡智と未知の技術はワタクシにとって甘美で! 筆舌に尽くし難い! 極上の知識でございました! ゆえに私は熱中し研究に邁進しまいりました! ……ですがそれ以上に私の知識欲を刺激するものが目の前に現れてしまった、貴方の元にいるだけでは決して知ることの出来ない知識を知るという人物が。その方から取引を持ちかけられワタクシはそれを飲んだ、この魔導具達はその方から借り受けたものです」


「これほど大それた事をしてまで知りたい知識なんて、一体何だというのですか?」


 アンヌからの問いにライレイは口元に恍惚な笑みを浮かべる。


「数千年前、我々先祖が犯したと言われる禁忌その真実」 


「禁忌についての研究は大陸法で禁止されているはずです!」  


 口にされたたその言葉にアンヌは驚愕を隠せず思わずそう叫ぶが、ライレイはむしろ楽しそうに口角を歪めて見せる。


「そう! その通り! ですが知るな探るなと言われれば知りたくなるのが人の性。禁忌の真実を知るためであれば生まれた国を売り、相容れない思想の連中を利用しテロまがいのことをすることもワタクシはいとわない!」


 熱に浮かされ様に話すライレイ。その言葉をアンヌは理解することが出来なかった、たとえ大罪を犯そうとも自らの求める知識を欲する狂気じみたその執念に圧倒され言葉がでない。


「あっそ、よーく分かった」


 そのとき傍らでライレイの話を静かに聞いていたアカネが口を開く。


「貴方が何のためにあたし達を裏切ったのかそれは理解したわ。ならそんな知りたがりの貴方に一ついいことを教えてあげましょうか?」


「ほう、それは是非にも」


 まるで世間話でもしているかの様な事を口にしながらもライレイは銃口をアンヌから話す事はせず、油断なくアカネへと向ける。


「それはね――その程度のおもちゃであたしを押さえ込むだなんて絶対に無理だってことよ」


 キィィィィン。


 その時、どこからともなく謎の音が響き始めた。

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