50話 俺のやりたいこと、この世界で成し遂げたいこと
夢は世界征服! そんな今時特撮の悪役だって言いやしないこと一切の恥じらいも引け目もなさそうにアカネは言い切りながらケロッとした顔で言葉を返してくる。
「当然、ふぜけてなんかいないわよ。あっ! 一応言っとくけどね、世界征服って言っても古いRPGの魔王みたいに武力で制圧してやろうとかそんな野蛮な話しじゃないわよ。今はまだこの小さな島国の中だけの話しだけど、ゆくゆくは私達が作り上げたこの技術と文化をこの世界全部に行き渡らせる。世界中を私色に染め上げてやるのよわっーはっはっはっ!」
「まぁやりたいことは分かったが。しっかし世界征服って、そんな荒唐無稽なもん」
「あら荒唐無稽だなんてつまんないこと言うわね。いい? 守護竜には出来ないことなんて無いの。何も無いところに火を出すことも、重力を操って飛ぶことも、国を作ることもだってぜーんぶ思うがまま、そう言うものにあたし達は生まれ変わった。だったたらつまんないことしたって時間の無駄じゃないやりたいことは全部やる、何も出来なかったあの頃とは違うんだから」
最後にぽつりと呟かれた言葉なんかニュアンスが違うような違和感を覚えたが、そんなものにツッコむ暇もなくアカネは言葉続けていく。
「貴方は何かないの?」
「なにって、俺が?」
「他に誰がいるってのよ。せっかく生まれ変わったんだもの、この世界でやりたいことの一つや二つはないの?」
「俺のやりたいこと……」
言われて少し考える。俺のやりたいこと、この世界で成し遂げたいこと、それはいったい何なのか考える――考えてみたが。
「……ねぇな。悪いが俺はあんたみたいにでかい野望や夢なんてありゃしねぇよ」
いくら考えたところでやりたいことなんて思いつかなかった。
「ふーん、なんだつまんないの」
「うっせ、ほっとけ」
本当につまんなそうに切って捨てられてさすがにちょっとカチンとくる。
だいたいこの世界にきてまだそれほど経ってねぇし、そもそも夢や目標なんてもんはこっちの世界に来る前から特にありゃしなかったんだにいきなりなんか出せってのは無茶ってもんだろう。
そうぶつくさと胸の内で文句が浮かぶが実際言葉にするとなんだかいかにも言い訳じみてて軟派な気がしたんで口には出さないでおく。
「さって、そろそろ帰りましょ。あー久々に思いっきり遊んで楽しかった」
猫みたいに体をぐぅーっと伸ばしながらそう言ってアカネは高度を落としながら、俺が元いたホテルの方へと飛んでいった。
なんだか最初から最後までこいつに振り回されっぱなしで釈然としない気分になりながら俺もその後に続いた。
人を遠慮なくふるまわすこの行動力とバイタリティーにはあきれるばかりだが、こういうやつだからこそこの国を短期間でここまで発展させる事が出来たのかもしれないと妙に納得できるような気がした。
そうして空を飛ぶこと少し、俺達が止まるホテルへと戻ってくると。
「ああ! いたぁ! どこ行ってたのよ、このざこトカゲ!」
なぜかホテルの入り口で待ち構えていたルリルが突然大声で叫ばれる。ルリルが血相を変えて俺の方へと駆け寄ってくる。
いったいどうしたのかと一瞬思ったが、すぐにその理由に思い至って思わず「あっ!」 と声が出る。
そう言えば姫さんに何も言わずに外出してしまったんだった。しまったなぁと思うが、今頃気が付いたところでもう遅い。
「あんたがいなくなったって、女王様が大騒ぎしてもう大変だったんだから。ほら、さっさとご主人様の所へ戻りなさいよ!」
ハウスッ! とホテルの入り口をビシッと指差してルリルから命令される。
普段なら人を犬みたいに言うんじゃねぇと文句を言ってるところだが、まぁ今回は俺が悪い上に今はそれどころじゃない。
何とかこの状況を切り抜けるすべはないかと頭を巡らすがそんなもん思いつくわけもなく、俺は観念して言われたとおり姫さんの元へ戻るべくホテルの入り口へと向かうが、気まずい気分はぬぐえない。
姫さんの元へ戻った後の事を思うとげんなりして前へ進む脚が心なしか重く感じる。
「……なんだかよく知らないけど、あんた案外苦労してるのね」
アカネからの慰めの言葉を背にしながら、俺は刑の執行を待つ囚人みたいな気持ちでホテルの部屋で待っている姫さんの元へと向かうのだった。




