49話 明るい未来をただ真っ直ぐに見つめて
「さて、外にも出たことだし。鬼ごっこでもしましょうか?」
「おい、また唐突に何言い出してんだボケてんのかテメェ」
「じゃあんたが鬼ね。よーいドン!」
「だッおい! 誰も鬼ごっこに付き合ってやるなんて言ってな、ああクソが!」
言うなりろくすっぽ人の話も聞かずカッ飛んでいくアカネの後を追う、さっきから好き勝手しやがってちょっと腹立ってきた。
いいぜ、売られたケンカは買う質だ、速攻とっ捕まえてぎゃふんと言わせてやる。
そう思い全速力で夜のビル街を飛ぶ。
ビルの間をすり抜け車を追い越し、視界に移る街の光が流星のように後ろへと流れていく。
だがそれでも。アカネとのその差は一向に縮まらずそれどころかどんどん離されていく。
速ぇ!
覚醒体のでもないのにアカネは高層ビルが建ち並ぶ街の中を弾丸の様な早さで飛んでいく。
ダメダメ、そんなんじゃいつまで経ってもあたしには追いつけないよ。
また頭の中にあいつの声が響く。
あたしに追いつきたかったら、もっと頭を使いないさ、守護竜には出来ないことなんて無いんだから。
言うだけ言ってまたブツリと声が聞こえなくなる、クソ本当にあいつはいったい何がしてぇんだ。
だが悔しいがこのままじゃあいつに追いつくことは出来ないだろう。
別に追いついたところで何かあるわけじゃないただそれでも舐められっぱなしじゃ気に食わねぇ、如何すればもっと速度を出してアカネに追いつくことが出来るのか思考を巡らせる。
今俺は魔導で周囲の重力を軽くした上で気流を操ることで飛行している、その基本的な理屈はは多分アカネも同じ筈だそれなのにこれだけ速度に差があるのはなぜだ?
多分単純な出力の差じゃないそれはなんとなく分かる、だとすればやり方の問題だ。
基本的な方法は変えず速度を上げるには如何するか? 無い頭使って考えてひねり出した俺の答えは重力の方向を変えること。
今まではただ軽くするだけだった重力の方向を操り、進行方向に向かって飛ぶのではなく落下する。
下にではなく横に落ちるのは奇妙な感覚だったが、思惑通り速度はぐんぐんと加速していく。
大気を操作して空気抵抗を軽減かつ姿勢を制御、だめ押しで手足と翼を畳んで物理的な抵抗も減らす。
すると思惑通り速度は加速し初めて徐々にだがアカネとの距離を詰めていく。
そうしてとうとうその背中に追いつこうかというその時、突然アカネが進行方向を変えたかと思うと目前にビルの壁が迫る。
やべっ! そう思った瞬間俺は咄嗟に重力を進行方向とは逆に作用させて急ブレーキを掛ける。
強烈な反作用で体が圧迫されるがそれでもどうにか、ビルの手前数センチギリギリのところで止まることが出来た。
「あっぶねぇ~」
「あ~面白かった♪ まだ重力の操作が雑だけど、まぁ及第点ってところかしら? もっと頭カッチカッチかと思ってたけどなかなかいいじゃない、嫌いじゃないわよ」
ホッと胸をなで下ろす俺にいつの間にか戻ってきていたアカネが声を掛けてきた。
「面白かったじゃねぇ! こちとら大事故寸前だったんだぞ」
「それは別にあたしのせいじゃないし、それにぶつかんなかったんだから別にいいじゃ無い、モーマンターイ」
「こいつッ」
「まぁまぁそう青筋立てなさんな、ほらついてきて」
そう言ってアカネがふわりと高度を上げ天へと昇っていく。色々不満はあれど俺もそれに渋々着いていき、そうして街を一望できるほどの高さに到達したときアカネは上昇を止める。
「どうあたしの国は? すごいでしょう」
街を見下ろしながら自慢を隠しもしない堂々とした態度でアカネはそう言った。
「一国を自分のもんだと言い張るとは、随分と肝の太ぇ奴だな」
「当ったり前、だってこの景色の全てはあたしとスバルの二人で作り上げたんだもの」
一切の謙遜も気後れも感じさせないアカネの表情を見て、城へと向かう車中ライレイが言っていた話しを思い出した。
ネネイルの技術はここ二十数年ほどで急激に発展したと、そしてその全ては女王と守護竜のおかげなのだとライレイは言っていた。
それが本当だとするなら恥ずかし気もなく国を自分のもんだと宣うこいつの言動も、あながち大袈裟なふかしという訳でもないのかもしれない。
「まぁ確かにこれは大したもんだとは思うがな。この国の技術ってのは全部魔導の応用だろ?」
「へぇ、気づいてたの」
「流石にな、そんくらいは分かる」
まるで別世界なんじゃないかと思えてしまうほどのネネイルの技術だが、ここはやっぱり姫さん達が生きるあの世界なのだ。
この体だから気がつけたことだが、ここまで車だのライブステージだの色々見てきたが、そのどれもに魔素の流れを感じることが出来た。
理屈としては俺がルリルに掛けた術式に似ている。
特定の条件下で発動する魔導をまるでプログラムみたいに組み合わせて向こうの世界にあった技術を再現しているわけだ。
「魔導具ってあたし達は呼んでる。今はただ向こうの技術のまねっこだけど、当然このままじゃ終わらない。なんせこの世界じゃ技術さえ身につければ自然そのものを操れる、石油や原子力なんて無くたって火力エネルギーも電気エネルギーも思うがまま、こんな夢みたいな話しはないわ。近い将来私達の技術は元いた世界すらも飛び越えて発展する確実にね」
どう? ワクワクするでしょう? そう言ってアカネは不敵な笑みを浮かべる。
俺達が元いた世界の技術を超える、俺には正直イメージがしにくい話しだが少なくともこいつはそうは思っていないのだろう。
爛々と目を輝かせて離すアカネ表情は不安や恐怖みたいな感情は感じられず、明るい未来をただ真っ直ぐに見つめている様なそんな風に見えた。
「……実はね、あたしには夢があるの。なんなのか聞きたい? ふっふっ良いでしょう、教えて上げる」
「別に聞いてねぇ」
何やらまた唐突に何か始まったが、正直少し興味はあった。
この国の技術をここまで発展させて、さらにその先へ向かおうとしているこいつの夢とはなんなのか。
「私の目標、それは!」
そうしてアカネは天を見上げて宣言する。自らが望むその野望の先にある物を世界中に知らしめるように高らかに。
「世界征服よ!」
「……ふざけてんのか?」
耳を疑いたくなるような、大胆不敵が過ぎる宣言に俺は思わず突っ込みを入れていた。




