47話 ビジネスの話を
「精唱祭って元々は姫巫女がただ突っ立ってあくびが出ちゃうような辛気くさい歌うだけのつっまんないお祭りだったの、だからアタシが元いた世界にあったものを参考にアレンジしたの。あっ! もし気に入ったなら、CDやグッズもあるからお一つどーお?」
ペラペラとセールストークじみた話をしながら朱い龍が俺達の前を進む。
精唱祭が終わった後も熱狂が冷めやらぬ中、女王の所へと案内すると言うんで言われるがまま何やら関係者通路らしき少しゴミゴミした印象を受ける通路を進むとスバル様控え室と書かれた張り紙らしきものが張られた扉の前で立ち止まる。
いやこんな所までそれっぽくする意味はあんのかと心の中で俺はツッコミを入れているうちに、朱い龍が扉の向こうへと声を掛ける。
「スバル! フィロールのアンヌ女王と守護竜連れてきたわよ!」
「待っていたよ。さぁ入って」
扉の向こうから聞こえた声を受けてライレイが扉を開くと、そこにはさっきまでステージの中央で踊っていたネネイル王国の女王スバルの姿があった。
すでに着替えを済ませたのかその恰好は舞台上で来ていたあのパンツルックではなく着物やチャイナ服を混ぜたような独特な衣装へと変わっており、深いスリットから伸びるスラリと長い褐色の脚を惜しげもなく晒し、袖口が広く長い上着はどことなく振袖を連想させる。
「ようこそ我が国へ! アンヌ女王陛下そしてフィロール王国の守護竜様、そして従者の皆々様方」
スバル女王は立ち上がると芝居がかった少し大仰な言葉を口にしながら、両手を広げ真っ直ぐに俺と姫さんの方へと歩み寄る姿はまるで舞台を歩く俳優の様だ。
「遠路はるばるよくぞ御出下さいました。まずはオレから出来る最大限の感謝を心から」
俺達の目の前でスバル女王は自然と片膝を付くと姫さんの手を取ってその甲に軽い口付けをして魅せる。
一々芝居がかっていて気障ったらしいことこの上無い動作の筈なのに、その全てが異常に様になっていて痛々しさはまるで感じず、不覚にも正直ちょっと格好いいとさえ思ってしまった、口付けされた姫さんも満更でもない様子だ。
「いかがでしたか? 我が国をご覧になられたご感想は? 驚いてもらえたでしょうか?」
「はい、それはとっても。ここまで初めて見るようなものばかりで、噂は窺っていましたがまさかこれほどだなんて」
「ふふっ、楽しんでもらえた様でよかった。オレもフィロール王国女王様のお噂はかねがね伝え聞いていましたが、いやはや其方も噂以上にお綺麗だ」
「まぁ、お上手ですのね」
「いいえ、オレはただ正直な気持ちを言葉にしただけで」
「はいはい! ストップ! ストップ! ストーップッ!」
歯が浮くような台詞をぶった切りながら朱い竜はスバル女王の首元に巻き付きついていった。
「まったくもう、黙って聞いてれば、余所の国の女王様口説いてどうすんのよ。これじゃいつまで経っても話しが進まないじゃない」
「ははっ、ごめんよアカネ。他国からのお客様なんて初めてだったからつい嬉しくなっちゃって」
「サービス精神旺盛なのは結構だけど、PTOを弁えてちょうだいな、まったく――さてと、遅くなっちゃったけど改めて挨拶しとくわね。初めまして言うまでもないだろうけどあたしはネネイルの守護竜、呼ぶときはアカネって呼んでちょうだい。守護竜って呼ばれるの可愛くないし堅っ苦しいから嫌いなの」
朱い龍、もといネネイルの守護竜アカネは一切物怖じを感じさせない堂々とした口調でそう言った。
朱い毛皮で覆われた体は一見すると狐の様にも見えるがひょろりと長くしなやかな体は様にも見える、俺ともデインの奴とも違う姿。
こいつがこの国の守護竜なのだ。
「貴方がフィーロールの守護竜? 最近こっちに生まれたっていう」
不意にアカネが俺に向けて声を掛けた。
「そうだが、それがどうかしたかよ?」
「あら、ナマイキね。嫌いじゃないわよ、そう言う負けん気」
言うだけ言ってネネイルの守護竜は首をもたげたまま、俺を含めたフィロール王国一同をぐるりと見渡した。
「それじゃあ改めまして、南フィロール連合王国の皆さん本日は長い旅路を超えてアタシたちの国によく来てくれたわ、んで早速で悪いんだけどあなたたちを呼んだのはあるビジネスの話をするためなの」
「ビジネスですか?」
「そう! フィロール王国と私達ネネイル王国で一つ取引をしないかって話し。大丈夫! 貴方たちにも損はさせないわ、具体的なプランとしては」
「ちょっとまって」
「むぎゅぅ――」
なにやらけたたましい勢いで話を始めようとしていたアカネだったが、スバル女王がその口をつまんで物理的に黙らせる。
「フィロール王国の皆様はお疲れだ、その話しは皆さんに一端お休みしていただいてからだよ、アカネ」
「えー! 嫌よ! だらだら引き延ばすのアタシ嫌いなのよ、それにちんたらしてたらあいつらが――」
「アカネ」
なおも言いつのろうとするアカネの言葉にスバルが割って入る。
「君の話しは性急すぎるよ。急ぐ気持ちも分かるけど、大事な話だからこそそれ相応の場で話しをしないと、違うかい?」
「……しょうがないわね」
不承不承に答えるネネイルの守護竜に対してスバル女王はやれやれと苦笑を浮かべた後俺達の方へと視線を戻す。
「そう言うわけなのでお話はまた明日、今日の所は皆さんごゆるりとお休み下さい。宿のお部屋へはご案内させますので」
スバル女王がパチンと指を鳴らすとどこに控えてたのか、使用人らしいダークエルフが姿を見せる。
使用人に案内されて控室を後にしようとしたその時とアカネが俺達を呼び止める。
「ちょっと待って、最後に一つだけ聞かせてくれない?」
言いながらアカネは不思議そうに首をかしげて、ある意味当然と言えば当然だが俺としては触れて細くなかった疑問を投げかけた。
「……どうして貴方たちセーラー服を着ているの?」
「触れてくれるな、頼むから」
俺の切実な訴えを受けてなのかどうかは知らないが、ネネイルの守護竜はそれ以上はなにも言わなかった。
俺達は城の外で待っていた例のリムジンに乗せられて、俺達はネネイルに滞在する間寝泊まりする宿へと向かう。
……最後、何か言おうとしたアカネにスバルが言葉を重ねたあの時。
まるで何か言ってはいけない事を言おうとしてるのを慌てて制止した様に見えたのは俺の気のせいなのか? アカネが口走りかけてたいあいつらっていうのはいったいなんだ?
まぁ、明日には話しをするって言ってんだ考えたってしょうがないだろう。
そうやって頭を掠めた疑問を脇に置いて俺達はその場を後にした。




