43話 頭の痛い話
ネネイル王国、ダークエルフたちが暮らす島国。
国を名乗ってはいるがその実、大昔に禁忌を犯し大陸を追放されたダークエルフ達の流刑の地でもある。
そんな場所に王女である姫さんが出向く事に大半の大臣や領主に難色を示し、そいつらをどうにか説得するのに一週間、そこからさらに船の準備や出国の手続きやらで二日も掛かってしまった。
せめて移動くらいは手早く済ませられないかと、いっそ以前帝国の連中がやったように俺が直接運ぶことを提案してみたが、外交上の問題で今回はそう言うわけにもいかないらしかった。
「ごめんなさい、守護竜様。苦労をおかけしてしまって」
「別に俺は何もしてねぇし、今回の事で苦労したのは姫さんの方だろうがよ」
多くの大臣や領主に反対されながらもこうして姫さんや俺がネネイルへと向かうことが出来ているのは一重に姫さんが粘り強く大臣達を説得したからだ。
元が過ちを犯した物達が作り上げた国であろうともフィロール、デインと世界を三分する程の大国である以上外交の面から見てもその誘いは蔑ろに出来る物ではなく。
何より遙か昔の過去に囚われ確たる理由もなく他を排斥することは国以前に人として相応しい行いでは無いのではないか?
そう姫さんは大臣や領主に説いて、義妹でありクルーゲル領領主であるアナを初めとした、数少ない味方になってくれた領主や大臣達の助けもあり、すったもんだの末にどうにか今回の訪問に漕ぎ着ける事が出来たわけだ。
「にしてもどうしてあそこまで? 外交がどうのとか人としてどうのと言っちゃいたけどよ。他にもなんか理由があんだろ?」
姫さんの言葉を疑うつもりはない、ただあそこまで必死になって説得するのに外交だの人としてあり方だのそんなお堅い理由だけではない様な気がしたのだ。
「そうですね……正直に言えば、私は一度見てみたかったのです。禁忌を犯し大陸を追われたと言われるダークエルフ達の国とそこに住む人々を。彼等ははたして今も尚、咎人として誹りを受けなければいけない様な、そんな人達なのかこの目で」
「……罰ではなく許しを与えたい、か?」
「あら、覚えてくれていらしたのですね。嬉しい」
「まぁ、一応な」
それは以前ルリルを城に迎える時、自分を痛めつけた相手に、どうしてそこまでしてやるんだとと俺が聞いたとき姫さん言った言葉だった。
罰ではなく許しを、それが姫さんが理想とする女王の姿であり生き方なんだろう。
正直に言えば姫さんの目指すそれは綺麗ごとの理想論なんだろう。
ただ俺はその綺麗ごとに救われて今ここにいる、だったらこれ以上とやかく言うのは野暮ってもんだろう。
「まっ、そういうことなら、あんたの好きにやれば良い」
「……ありがとうございます、守護竜様」
「礼を言われるような事もしてねぇよ……ところでー、その恰好まだ続ける感じか?」
「? ええ、もちろんでございます。これは我が国において船上での正装ですから船にいる間はずっとです……どこかおかしいところがあるでしょうか」
「いや、そうじゃなくてだな」
俺は目のやり場に困りながらも改めて姫さんの服装を確認する。
プリーツがついた若干丈の際どい白のスカートから伸びる脚にはニーソとローファー、独特の大きな襟半が付いた袖の上着に胸元には空色のスカーフ。
それはどう見てもセーラー服だった。上下共に白色の純白のセーラー服。
中学や高校で女学生が着て機関銃ぶっ放したり月に変わってお仕置きしたりしてるあのセーラ服だ。
本来学生が着るはずのそれを大人の姫さんがそんな物を着ているすがたは、スク水の時とはまた違った生々しさと背徳感があって、なんと言うかイケナイものを見てるような気がして目のやり場に困る。
なぜ姫さんがそんな恰好しているかと言えば、最早説明するまでもない気がするが姫さん曰く。
「この服は我が王家に伝わる伝統衣装で、守護竜様の世界において船上で身につける正装であると」
と、言うわけでいつものやつだ。
まったくどうして毎度この世界にはこう、しょうもない上に微妙にマニアックな物ばっかり伝わってるのか。
しかもスク水の時もそうだったが、若干のアレンジを加えて地味に王道から外してきてるのも腹が立つ、つうかまたニーソかよ! これ考えたのスク水の時と同じ奴だろ、ふざけやがって!
少しは恥ずかしいとか思ったりしないんだろうかと姫さんの顔を伺ってみるが疑問なんて何にも抱いていないような顔をしている。
まぁ考えてみれば当然か。俺から見てどれだけみょうちきりんだろうとこの世界ではこれが当たり前、いちいち突っ込みを入れている俺がおかしいんだろうが。
「なんつうか、頭の痛い話だ」
「頭が痛い? まさかどこかお加減が? 大変! 早く寝室で尽きっきりで看病を!」
「いや、別に具合が悪いとかそう言うんじゃねぇから、気にすんな」
「でも」
「でももヘチマもねぇよ。大丈夫だって、ほら元気! 元気!」
「そうですか必要ないですか、看病……残念です」
そう言って姫様は残念そうな顔をした。いやそこでなんで残念そうな顔をするのかは俺にはよくわからないが、そのあたりはあえて触れないほうがいいような気がするので気にしないでおく。
「そんなことより姫さん、少し散歩に行きてぇんだけど」
「お一人でですか? 心配ですから私も一緒に」
「一人で行きてぇんだよ。大丈夫そんな遠くに行きやしねぇから」
「…………分かりました。でも本当に遠くへ行ってはダメですよ、迷子になってしまっては大変です。あと落ちているものを拾って食べたりしてはダメですよ、お腹を壊してしまいますから、知らない人に声を掛けられてもついていってはいけませんし、あとあとちゃんと前は見て飛ぶようにしないとだめですよ、ぶつかって怪我をしてしまったらたいへんです、それからそれから」
「わーった、わーった、気をつけるよ。じゃあ、もう行くから」
「なるべく直ぐにお戻りになられて下さいね、危ないことは絶対にしちゃダメですよ~!」
「へいへーい」
まったく、たかだか散歩に行くってだけでどうしてそこまで心配になれるのか。
しかし散歩といったは良いものの別段やることは特に無いわけで。
なんせこの船に乗ってからもう三日がたっている、船の中はあらかた見て回ったし代わり映えのない水平線にもいい加減飽きが回ってきたところだ。
当てもなく船の中をしばらく彷徨った後、マストの天辺にある見張り台からやることもないので海を眺めていると。
「あっれぇ? こんな所で何をしてらっしゃるんですかぁ? 守護竜サマ」
人を小馬鹿にしたような小憎たらしい声に視線を向ければ案の定ルリルがマストを上って来る所だった。




