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4話 はっきり言っても興味も無いどうだっていいことだ

 謁見室という名前がそう見せるのか、広い豪華な部屋の中央を赤いカーペットが玉座へむかって真っ直ぐに伸びるその景色は何所か壮観で厳かな威圧感を感じさせる。


 風呂から出た後、俺はお姫様にここへと連れてこられていた、なんでも領主がどうのこうのと話していたが、どうしてそんなもんに俺が付き合ってやらなきゃならないのか。


 そんな不満を抱く俺を抱いたままお姫様はゆっくりと玉座へ腰を下ろした。


 玉座から見る景色になんだか意味もなく偉くなったような気分になるが、厳密にいえば俺が乗せられているのはそこに座るお姫様の膝の上だ。


「お入りなさい」


 お姫様の号令に合わせて控えていた二人の兵士が両開きの扉を開け放ち、そこから女と男が謁見室に入ってくる。


 一人は大柄で男と見待ちがえてしまいそうな程ガタイのいい腰に剣を差した金髪の女。


 もう一人は見てくれは良いががすかした印象を受けるホストみたいないけ好かない男。


 二人が並んでお姫様の前に跪く。


「クルーゲル領領主アナスタシア、ファルム領領主クロイゲン(おもて)を上げてください」


 お姫様に言われ、跪き頭を下げていた二人が同時に顔を上げる。


「お二人とも此度は遠方からご苦労様でした」


「いえいえ滅相もございません。守護竜様の生誕の義は国を上げて祝福すべき重要な儀式、何より敬愛するアンヌ女王閣下が正式に守護竜の姫巫女を継承する記念すべき日でもある。例え何があろうともこのクロイゲン、はせ参じることになんの苦労もあろう筈がございません」


 ペラペラと口火を切ったいけ好かない男を、隣の金髪の女がジロリと睨む。


「相変わらず、風車(かざぐるま)の様にカラカラと良く回る舌だなクロイゲン」


「これはこれは、手厳しいですなアナスタシア嬢、相変わらず抜山蓋世ばつざんがいせいのご様子で。しかしそのような調子ではいつまでも男が寄りつかないのでは?」


「ふんっ! この程度の事で恐れをなす腑抜けなどこちらから願い下げだ」


「ははっ、それはまた剛毅でありますな」


 嫌味ったらしく笑うクロイゲンを、苦虫を噛みつぶしたような顔で睨むアナスタシア。


 この短いやり取りで二人がお互いの事を良く思っていない事が、端から見ても分かりやすい。


「おっと、申し訳ございません。女王様と守護竜様の御前で談笑に更けるなど不敬の極みでございました、なにとぞどうかご容赦を」


 思い出したようにそう言って頭を下げたクロイゲンに対して「構いませんよ」と短く答えた後お姫様が俺に視線を向ける、どうやら意見を求めているらしい。


「……別にいいじゃんねぇの」


 正直どうでも良かったので適当にそう答えてやると、姫様は小さく眉根を寄せて。


「もう、またそんな言い方をして」


 と、俺にだけ聞こえるようにそう囁いた後、クロイゲン達への方へと視線を戻した。


「寛大なご処置感謝致します守護竜様。改めましてワタクシ、クロイゲン・ギル・ファルムと申します。以後お見知りおきを。それにしましても女王閣下この度は守護竜様ご生誕改めてお祝い申し上げます。前女王閣下が半月前に病で急逝なされた時は身を引きちぎられる思いでございましたが、いやはやご立派に責務を真っ当なされて。ワタクシ感無量の極みでございます」


 ……さっきアナスタシアがクロイゲンの事を風車の様だとか言っていたが、なるほど良く的をえている。


 上からはっ付けたように軽薄でいけ好かない笑みを浮かべながら、矢継ぎ早に軽い言葉を並べ立てるクロイゲンは確かに風に吹かれてカラカラとやかましく回る風車の様だ。


 顔を合わせてそれほど経っちゃいないが、俺はもうこいつの事が嫌いだ。


「きっと、亡き国王閣下もお喜びになられていることでしょう」


 国王ということばをクロイゲンが口にした瞬間、お姫様の右手がそっと左手の薬指に嵌められた指輪に触れた。


「……ところで、以前からお話させていただいた縁談の件そろそろご決断いただけませぬでしょうか?」


 その時、お姫様の体が触れている俺にしか分からないほど僅かに強ばった。


「恐れながらこのクロイゲン・ギル・ファルム必ずや良き国王、良き伴侶としてあなた様を永久にお支えし役目を全うできると自負しております。こうして次代の守護竜様がお生まれになられた今、次の王配に国王としての責務を任せ、アンヌ様には巫女としての御役目に注力していただくことこそが本来、王家のあるべき姿であり守護竜の巫女であらせられる女王閣下の責務であるはず、であれば!」


「いい加減にしろ貴様」


 低いドスの利いた言葉を口にしてアナスタシアが立ち上がり、跪くクロイゲンを見下ろし睨む。


「さっきから聞いていれば不敬が過ぎるぞクロイゲン。これ以上、義姉様(あねさま)に無礼な口を利くならその舌この場で切り落とすぞ」


「おやおや何を言いますか。ワタクシはただこの国のそして何より女王閣下の身を案じ進言したまでのこと、不敬などと言われる筋合いはございませんが?」


「薄紙の様に見え透いた言葉だな。貴様はただ兄上の後釜に座って権力を得たいだけであろう」


「そんな滅相もない、私程度があなたの兄上であらせれるロイド国王閣下に取って代わろうなどとそんな大それたこと考えつきも致しませんでしたよ。」


「ペラペラと身勝手ことをぬかす、たかだか一領主の分際で王にでもなったつもりか?」


「あなたこそいつまで女王様の親族でいられるつもりですかな? 兄上様はもういらっしゃらないのですよ、アナスタシア殿」


「アナッ!」


 お姫様が静止の声を上げる、アナスタシアが腰の剣に手を掛けたからだ。


 お姫様の声で剣を抜きこそしなかったが、その手は柄から離れず口惜しそうに睨みつける。対してクロイゲンは何食わぬ顔で薄笑いを浮かべていた。


「これは失礼いたしましたアナスタシア殿、御気に障ったのなら謝罪致します。ですが女王陛下、先ほども述べましたとおり婚姻の提案は偏にあなた様の身を案じての事、その想いはワタクシ他、()()()()()()()でもあります。ですからどうかご決断の程を」


 そう言ってクロイゲンは嫌らしい下品な笑みを浮かべながらお姫様に婚姻を迫る。


 あの時、合いたくないのかと聞いたら困ったような笑みを浮かべたその理由がなんとなく分かった。


 それなのにアナスタシアが怒りはしても強く詰め寄れなかったり、お姫様が何も言わないのはきっと何か事情があるんだろう。


 政略だ立場だ地位だ具体的な理由は知らないがなんにせよ七面倒くさい話だ。


 お姫様の顔を見上げてみる。すると俺の視線に気が付いたお姫様俺のことを見て、また少し困ったように微笑んだ。


 この国の内情だの、女王の責務だなんだとか、そんなものは俺にはさっぱりわからないし、はっきり言って興味も無いどうだっていいことだ。


 そう、どうでもいい、どうでもいいが……。


「チッ、軟派なことしてんじゃねぇよ」


「え? 守護竜様」


 キョトンとした顔で俺の事を見下ろすお姫様を無視して俺はクロイゲンの奴へと視線を向けた。

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