35話 スッキリしない結論
「端的に申し上げますと、この度の事件に我々帝国の関与があったことは事実です」
さらりと口にされた事実に顔には出さずともこの場にいた全員が驚いた。
追及したところでどうせ知らぬ存ぜぬで一点張りでうやむやにされて終わりだろうと誰もが思っていただけに、こうもあっさり関与を認めるなんて完全な不意打ちだったからだ。
「貴国からの依頼を受けて調査を進めたところ我が国の大臣の一人がクロイゲン公と内通し今回の事件を企てた事が判明しました。彼は以前からタカ派として国内でも有名な人物でして今回の騒動も守護竜の巫女である女王を拉致することでフィロール王国を弱体化させることが目的であった様です」
「……つまり此度の女王誘拐は帝国から手引きはあったがそれは一部の過激派が独断でやったことであり自分達は無関係であると、そうおっしゃりたいのですかな? デインの守護竜殿」
そう口を挟んだのは姫さん並んで座っていた大臣の一人、以前俺がすっ転ばしてやったあのヅラジジィだった。
「いいえそのようなつもりはありません。経緯はどうであれ帝国の者が貴国に対して危害を加えたことは事実、国のものが狼藉を働いた以上我々も無関係とはとても言えませんだからこそこうして直接謝罪に伺ったことこそが我が国の誠意であると思っていただければ」
「ふんっ、私には体よく尻尾切りをしようとしてるようにしか聞こえませんな。あなた方の話にはそれを裏付ける証拠がない、誠意を示すとおっしゃるならばせめてその下手人の身柄を我々に引き渡すべきなのでは?」
「おっしゃる通り、ですが残念ながらそれは出来ないのです」
「ほう、それはまたどうして」
「容疑者である大臣はすでに死亡しているのです」
突然飛び出した死という言葉に周囲の空気が俄かにピリついたものへ変わる。
「自身の蛮行が露見することを予期した上での自害だったようです、残念なことではありますが我々が証拠をつかんだ頃にはすでに」
「言い分を裏付ける証拠はなく、唯一の証人である容疑者はすでに死亡。ずいぶんと帝国にとって都合がいいことですな」
「ええ、非常に残念なことですが」
「貴様ッ――!」
「もうそのあたりでよいのではありませんか? バリドット様」
その一言に大臣は怒りの表情を浮かべて何かを言い放とうと席から腰を浮かせるがそれを姫さんの声が遮った。
詰め寄ろうとしていた大臣は不服な表情を浮かべたが姫さんは穏やかな声で言葉を続ける。
「確かに帝国側のお話に嘘がないと裏付ける証拠がないのは事実、ですがそれは私達も同じこと互いに決め手が無い以上いくら真実を追求したところで不毛な水掛け論にしかなりません、ならばこの場で話し合うべきことはもっと他にあるはずです、違いますか?」
「ですがっ……いえ、女王様のおっしゃる通りでございます。口が過ぎました」
不服そうではあったが姫さんの言い分にが理があると判断したのかバリドットの奴は思ったよりも素直に矛を収め浮かしていた腰を下ろした。
「寛大なご処置感謝致しますアンヌ女王陛下」
「いいえお気になさらないで、我々とて帝国と必要以上に争うつもりはないのですから。皆さんもそれで宜しいですか?」
姫さんが伺うとバリドットを始めとした大臣連中はそれぞれ思う所はあるようだったが、結局その場で反論するも奴は一人も出てこなかった。
その後二国間の話し合いは粛々と続き最終的に帝国側が多額の賠償金を支払うと言う何ともスッキリしない結論で会談は御開となった。
「エリザ様はこの後、お時間はおありなのですか?」
会談が終わった開放感が辺りに漂い始めた頃合いで、姫さんはエリザにそう声を掛けた。
ただ緊張からなのか、その質問に対してエリザの答えは若干まごついた。
「い、いいえ。特にそう言ったものはありませんわ」
「でしたら、この後お茶でも一緒にいかがでしょう? せっかく遠い場所から訪ねてきていただいたのですもの、なんのおもてなしも無しにお帰りいただくのは心苦しいですので」
姫さんの誘いを受けてエリザがチラリと視線を送ると、デインの守護竜はにこりと笑みを浮かべる。
それを受けてエリザは嬉しそうに表情を明るくして姫さんへと視線を戻す。
「お気遣いありがとうございます、そのお誘いぜひお受け致しますわ」
元気よく返事をするその姿は年相応に無邪気で、そんな姿に姫さんは表情を綻ばせて笑い。
「よかった。じゃあせっかく良いお天気ですし庭園の方へご案内致しましょうか、セリスお茶とお茶菓子の準備をお願いしてもよろしいですか?」
「かしこまりました。準備ができ次第庭園の方へお持ち致します」
「ありがとう。それではエリザ様どうぞこちらへ、ご案内致します」
「ええ。ふふ、とっても楽しみですわ、わたくし他国の方とお茶会をするのはこれが初めてですの」
「あら、そうなのですか? フィロールのお茶がお口に合えばよいのですけど」
なんと言うか、とてもさっきまで国家間の話し合いをしていたとは思えないような、緊張感のないのほほんとした空気だった。
あんまりな緊張感のなさに、これでいいのか? と思わないでもないが、まぁ姫さんが楽しそうにしているなら、俺から特に文句を言う理由もない。
そう思っていたその時、何か視線を感じた気がしてあたりを見るとデインの守護竜と目が合った。
……特に何って訳じゃない。
ただなんとなく、目が合ったその視線がが何か意味深なものだったたようなそんな気がした。




