34話 帝国の皇帝
空の竜がゆっくり高度を落とし俺たちの目の前に着陸するとその背中から金髪の女の子が顔をだした。
「よいしょ……あれ? んっ、ん~!」
女の子は竜の背中から降りようとするがどうも足が届かず苦戦をしているのか、一生懸命つま先を伸ばしたりパタパタさせたりしている。
「……あら~」
そんな可愛らしくも微笑ましい光景に何やら姫さんが呟いた気がしたが聞こえなかったことにしてスルーする。
なかなか降りることのできない女の子に竜が更に低く身を屈めながら体を傾けてようやく彼女ほ降りることができた。
女の子はドレスの裾を引きずらないようスカートを軽く持ち上げながら、姫さんの前まで歩いていくとそこで一度会釈をしてみせる。
「お初にお目に掛かりますアンヌ女王陛下、この度はわたくしどもからの願いをおききいただきありがとうございます。わたくしデイン帝国皇帝デイン・エリザリンデともうしますどうぞエリザとおよび下さい」
女の子が帝国の皇帝を名乗るその自己紹介を聞いて俺は目を丸くした。
なんせ今目にいるのはどう見繕っても十代そこら、下手をすればそれよりも幼く見える少女なのだ。正直最初は何かの冗談なんじゃないかと本気で疑ったが相手の様子を見るにそんな雰囲気ではないし、そもそも公の場に冗談で皇帝を騙るなんてことが出来るわけもない。
これは姫さんもさぞ驚いているんじゃないかと、俺がちらりと見上げて様子を伺ってみると。
「あらあら、まぁまぁ」
……なにか触れてはいけない琴線に触れたのか、エリザを目の前にして姫さんは頬を高揚させて目を輝かせていた。
流石にこのままだと女王の威厳が消えて無くなりそうだったんで仕方なく軽く小突いてやると、姫さんはそんな場合じゃない事を思い出してくれたのかこほんと咳払いをして緩みかけた表情を引き締め直す。
「こちらこそお初にお目に掛かりますエリザ皇帝閣下、ようこそ南フィロール王国へ。それにしてもまさか皇帝閣下と守護竜様直々に訪問なされるなんて、言って下さればもっと丁重にお迎え致しましたのに」
朗らかな笑みを浮かべながら女王として挨拶を返す姫さんだったが、なぜだかそれを受けたエリザの方がキョドり始めた。
「あ、えっとそれはその、えっと」
さっきまで堂々としていた癖に突然不安そうにエリザが目を彷徨わせたかと思うとそのままデインの守護竜の後ろへと隠れてしまった。
「ほら、エリザ。君は皇帝なんだよ」
「ごめんなさい。でも……わたくし緊張してしまって」
後ろから不安そうにこっちをうかがうエリザをデインの守護竜がたしなめるその様はまるで人見知りで親の背に隠れる子供の様だった。
状況をみかねてか代わって守護竜の方が口を開いた。
「不意打ちの様な訪問になってしまったことお詫び致します。皇帝陛下ご自身が訪問されると知れば御国に不要な気遣いをさせてしまうと考え伏せさせて頂きました。謝罪すべき相手にもてなしをさせるわけにはまいりませんので」
「謝罪、ですか?」
「はい、詳しい事は落ち着いた場でお話しさせて頂ければ」
「そうですね、いつまでもこうして立ち話をしているわけにも参りません。どうぞ城の中へお入り下さい」
「お気遣い感謝致します、女王陛下」
デインの守護竜が恭しく会釈をした瞬間その体を光が包む。
思わず目を細めてしまうほど激しい光は徐々に弱く小さくなり、完全に消えた頃には今の俺よりも一回りほど小さな姿になったデインの守護竜が残されていた。
小さくなったデインの守護竜が翼を羽ばたかせながらふわりと浮かび上がりエリザの肩に止まる。
隠れる場所が無くなって少し不安そうにしていたエリザだったが、肩の守護竜に励まされてグッと背筋を伸ばし俺達と共に城の中へと歩みを進めだした。
……なんか想像していたのとはだいぶ違うな。
俺が話を聞いて抱いていた帝国のイメージはもっと物騒でいかつい連中の集まりのように思っていたのだがなんと言うか正直拍子抜けだった。
それはきっと俺以外の連中も同じなんだろう、そこはかとなく毒気を抜かれたようなそんな気配を辺りから感じられた。
改めて帝国の二人を見ると、興味深そうにきょろきょろとあたりを見回すエリザとその肩に乗ったデインの守護竜が何か話をしているようだった。
俺以外の守護竜に会うのはこれが初めてだったが、インの守護竜は落ち着いた物腰でなんというか大人な印象を受ける。
こいつも俺と同じ向こうの世界の人間だったんだろうか? それともまさかもっと別の世界なんて事もあり得るのか?
気にならないと言ったら嘘になるがとは言えこの場であれこれ質問するのも気が引ける。
そうして俺は湧いてきた好奇心を一端脇に置いたのだった。
城内のある一室、豪奢な作りになっているその中央には応接用の長机と椅子が設置され大臣が数名と姫さんが席に着きその後ろにはセリスが控え長机を挟んだ対面にはデインの守護竜を肩に乗せたエリザが座る。
「それで、書状にあったお話というどういったものなのでしょうか? 先程は謝罪と仰っておられましたが」
姫さんが静かにそう問いかけると、質問に答えたのはエリザの方ではなく守護竜の方だった。
「書状に書かせて頂いたとおり今回我々がこうして訪問したのは、先日起きたフィロール王国女王誘拐事件についてあなた方が我々の関与疑っているとお伺いしたからです」
デインの守護竜の発言に辺りの空気が僅かにピリつく。
地下牢に投獄されたクロイゲンやルリルの証言を受け誘拐事件について関与の疑いがあるとされたデイン帝国、その代表がその事件について話そうっていうのだいったい何を言い出すつもりなのかと緊迫するのは当然だ。
そうしてわずかに緊張した面持ちな王国陣営の視線受けながら、デインの守護竜は落ち着いた様子でゆっくりと言葉を続けた。




