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31話 黒竜は静かに笑みを浮かべる

          ✣


 デイン帝国首都ハーゲン、その北方にそびえる王城その一画。


 一匹の竜が明かりの落ち薄暗くなった城内で、天窓から覗く三日月を静かに眺めている。


 全身を漆黒の鱗で覆われ、前肢と一対になった双翼を持つ翼竜の姿は遠目からみるとどこか鴉を連想させる。


「あっ、あにさま」


 舌足らずの声に呼ばれ黒竜は空の月からその視線を外した。


 暗闇の中かから小さく可愛らしい足音を響かせながら駆け寄ってきたのは、金色の髪をした年端もいかない少女。


 彼女の身につけたドレスかなり高価で上等な物だったが、寧ろそれがより一層彼女の幼さを助長させているようにも見える。


「こんな所にいらっしゃったのですね、探したんですのよ」


「ああ、すみません。どうかしたのかい?」


「いいえ、別にそう言うわけではないのですけれど。お兄さまこそどうなされたのですか?」


「? なにがだい」


「だって、なんだか少し残念そうなお顔をされていたような気がしたから」


 少女の無邪気な問いかけに、黒竜は少し大袈裟に驚いたような顔をして。


「相変わらず、すごいねエリザは。顔に出したつもりはなかったのだけど」


「お兄さまの事ならなんでもお見通しですわ、わたくしは竜の巫女なのですもの」


「ははっ、エリザに隠し事はできないね。いやなに、ちょっとした計画が一つ失敗に終わってしまって。まったく、もう少し早くあれの解析が終わっていればもっと楽が出来たのだけど」


「なにか大切な事だったんですの?」


「いや全然。元々上手くいったら良い程度の事だったし失敗したからといって困る様な事はないよ、ちょと残念ではあるけどね」


「そうなんですのね……。そうだ! 兄さまお聞きになりまして? フィロール王国で新しい守護竜さまがお生まれになられたって」


「ああ、聞いているよ」


「いったいどんな方なのでしょう? わたくし是非お会いしてみたいですわ」


「ふむ……」


 少女が口にした無邪気な言葉を聞いて、黒竜は僅かに考えて。


「そうだね、それじゃあ会いに行こうか?」


「! 本当ですのっ」


「本当だよ。手配をしてくれるよう大臣に頼んでおくよ」


「いつ? いつ行きますのッ!」


「それはまだなんとも、でも準備ができたら直ぐにでも」


 その言葉きいて少女は翡翠色の瞳を喜びでキラキラと輝かせる。


「ありがとうお兄さま、わたくしとっても楽しみですわ。だってフィロール王国に行くのはこれが初めてなんですもの」


「喜んでもらえて嬉しいよ。それじゃあもう夜も遅い、エリザは寝室で待っていてくれるかい? 僕も今の事を大臣に話したらすぐに行くから」


「分かりました。お兄さまも直ぐにいらしてくださいね、約束ですわよ」


「ああ、分かったよ」


 少し名残惜しそうにしながら少女は駆け出し、薄暗い闇の中へと消えていく。


 知らぬ物が見ればまさかあの少女が大陸に名を轟かす帝国の女帝デイン・エリザリンデその人だとは誰も思わないだろう。


 それくらい彼女は純粋で無垢で、女帝と呼ぶにはあまりにも幼い。


「ふう……しかし、あの男も馬鹿な事をしてくれたよ。間者なんて差し向けなければまだ幾らでも誤魔化すことが出きただろうに」


 独り言を呟きながら黒翼の竜はフィロール王国貴族だったあの男の名前はなんだったかと思い出そうとするが、直ぐにどうでもよくなって考えるのをやめた。


 黒竜が天窓から覗く月へと視線を戻す。


「フィロールの守護竜。いったい君は、元の世界では何所の誰だったのでしょうね? もしかしたらお互いよく知る人物だったりして」


 一人呟き黒竜は静かに笑みを浮かべる。


「まぁ、この際だ。同じこの世界に生まれ変わったもの同士話でもしようじゃないか」


 その笑みは、どこか夜空に浮かぶ三日月に似ていた。

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