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25話 その言葉を口にすることは俺にとって勇気のいることだった

「落ち着かれましたか?」


 どれくらい時間が経ったのか、涙が落ち着いた頃にお姫様がそう声を掛けられて我に返った俺はいつ間にかお姫様の胸元へうずめていた顔を引きはがし慌てて距離をとった。


「あらあら、もう少し甘えてくれてもよかったんですよ?」


「いい! つうか別に甘えてなんてねぇ」


 人前で泣きじゃくるなんて、俺としたことがなんて軟派なことを!


 しばらくは寝る前に思い出しては悶絶すること確定な大失態だったが、それでも不思議と気分は悪くないものだった。


 胸のつっかえが取れたというかずっとのどに刺さってた魚の骨が取れた時みたいな解放感と清々しさがある。


 おかげで覚悟も決まった。


「……ここから出よう」


 俺はお姫様ににそう提案した。


「俺が暴れてあいつらの気を引くからその間にあんたは逃げてくれ。適当に相手して時間稼いだら俺も合流する」


 見たところ俺たちを閉じ込める地下牢はそれほど頑丈なものじゃない、魔導を使えばここからの脱出自体はそれほど難しくはないだろう。


 問題はルリルとかいうあのガキだが、真っ向から挑まず時間稼ぎに徹すればお姫様を逃がす時間くらいは稼げるはずだ。


 脱出のための作戦を説明するがそれを聞いたお姫様の表情はさえないものだった。


「守護竜様、それは――」


「分かってる」


 皆まで言う前にお姫様の言葉を遮る。


 俺が戦おうとすることにお姫様が難色を示すことは分かっていた、さっきまでの俺だったら消極的なお姫様に苛立っていたかもしれないが今はそうはならなかった。


 お姫様が俺の事を想い心配してくれているのだと信じることが出来るから。でも、だからこそ引くわけにもいかなかった。


「俺はあんたを助けたい」


 こんな気持ちは初めてだった。


 元の世界にいた頃、俺はただ周りに苛立ちをぶつけて当たり散らすために暴力を振るってきた。


 だけど今はただこの人を救いたい、この人を元いた場所に返してやりたい。


 望まれた訳でも無いのに、誰かの為に何かをしたいと初めてそう思えた。


「大丈夫必ずうまくいく。だから――」

 

 声がそこで一度詰まった。


 正直、その言葉を口にすることは俺にとって勇気のいることだった。


 それを言ってしまったら俺はお姫様の期待を背負うことになる。


 誰かの期待を裏切って失望されてしまうのが怖い、だから俺は今まで逃げてきた。


 人を傷付けて距離をとって、そうすれば誰も俺に期待なんてしないから。


 でも、今回ばかりは逃げる分けにはいかない。


 お姫様の瞳を見つめる、不安そうに揺れるそれと真っ直ぐに向き合う覚悟を決めて俺はその言葉を口にする。


「――俺を信じてくれ」


 お姫様の目が大きく揺れる。


 悩み、逡巡する様子を見せながらお姫様は一度瞳を閉じて、そして。


「……分かりました」


 お姫様は瞳を開き真っ直ぐに俺を見て。


「私は守護竜様を、信じます」


 そう力強く答えてくれた。


「そうこなくっちゃな――さて、そうと決まれば早速」


 俺は目の前の鉄格子を魔導で吹っ飛ばしてやろうと意識を集中するが。


「お待ち下さい」


 突然静止の声を掛けられてどうしたのかと振り返ると、お姫様はまるで祈りでも捧げるみたいに手を組み聞いたことのない詠唱(アリア)を奏で始める。


 お姫様の手に刻まれた聖痕が輝く。


 美しい旋律と一緒にまばゆいほどの光りが薄暗い地下牢に満ちていいく。


 「本当はもっと早くこうするべきでした」


 そう話すお姫様の目はいつになく真剣なもので、思わず俺の居住まいを正す。


「守護竜様の力は普段その殆どを封印されています、そしてその封は守護竜の巫女である女王のみが解くことが出来る。……ですが私は今まで封を解くべきか迷っていました、今まで諭すようなこと言っておきながら私は結局あなたの事を――」


「どーでもいいよ、んなこたぁ」


 そう言ってやると、お姫様が申し訳なさそうに伏せていた顔をあげる。


「正直俺にはあんたが何を申し訳なく思ってんのかよく分かんねぇけどよ……あんたはさっき信じると言ってくれた今はそんだけで十分だ。こんな辛気くさい所とっとと出て城に帰ろうぜ――姫さん」


「――はいっ」


 力強い返事を返すと姫さんは聖痕が光り輝く右手で俺の額に触れる。


「――――――異界の世より流転せし魂よ、今、御身を縛るその枷を解く」


 額にふれた聖痕から溢れる光が俺の中へと流れ込んでくる。


「――――――紡がれし盟約の元、誓いを告げる。我が身、我が生、我が魂は御身の為に、ゆえに我が願いを聞き届けたまえ」


 流れ込んだ光は俺の体から溢れ出し、辺りを真っ白に染め上げ俺とお姫様を包み込む。


「災禍を払へ、円環の護り手よ―――!」


 俺は光を纏いお姫様を抱えながら、その場から大きくと飛び上がった。

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