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24話 本当に馬鹿みたいな話

 すべてを話し終えて我ながらクソ面白くもない話しだなと自嘲する、いったい俺はこんな事を話してどうして欲しかったんだか。


 自分に呆れはてていたその時、いきなりお姫様が肩もまだ痛むだろうに俺の事を持ち上げそっとその胸の中に抱きよせた。


 突然の行動に俺は戸惑いながらも抗議しようとするが。


「守護竜様は、ずっと頑張っておられたんですね」


 耳元でささやかれたその言葉の意味を、俺はすぐには理解できなかった。


「お父様とお母様の期待に応えようとずっと、ずぅ~と」


 なに言ってんだ? 俺のことを励ましてるつもりかよ。


 他人からの哀れみなんてそんなもの何の意味がある、ただムカつくだけだ。


 ちょっと話しを聞いたくらいで理解したような面しやがってふざけんな。


 同情も哀れみもクソ食らえ、俺は一人それでいいんだ……そのはずなのに。


「よく頑張りましたね」


 ――――それは俺がずっとずっと求めてた、求めてはいけないと思ってた言葉だった。


 気が付くとツーと涙が俺の頬を静かに伝っていた。


 別に悲しいわけでも痛いわけでもない、心は穏やかで涙を流す理由なんて何も無い筈なのに視界の中の水位が上がっていく。


「ああクソッ! なんだよ! ふざけんなよクソッ」


 目元から零れる涙を何度も何度も拭うが涙は止めどなく溢れて止めることができない。


 涙を流す度、心の中にあった冷たくてトゲトゲした物が溶けて流れ出ていくような感覚だった。


 一言。たった一言の言葉だけで向こうの世界にいた頃から胸の中でわだかまっていた苛立ちが消えて無くなっていく。


 それが悔しくて、情けなくて、どうにか涙をこらえようとするけど出来なくて、もう自分では何が何だか分からなくなりかけて。


 不意に何か暖かい物が俺の頭に触れる。


 突然の事で一瞬それがなんなのか分からなかったが、体が覚えていた。


 こっちに来てから何度も伸ばされては払いのけてきたお姫様の手が今までそうしていたようにゆっくりと俺の頭を撫でる。


「よしよし、いいこいいこ」


 一周回って笑っちまいそうな、聞いてるだけで恥ずかしくたまらなくなるようなそんな声を聴いて心が安らいでいく自分がいる。 


 なんだよ俺が今まで抱えてたもんなんて、その程度のもんだったんじゃねぇかよ。


 本当に馬鹿みたいな話だ。


「なぁ、俺は……ほんとに頑張てったかな? 父さんや母さんの期待には答えられなかったけど。それでも一生懸命頑張ったんだよって、言って良かったのかな?」 


「ええ、もちろん。守護竜様はとっても頑張り屋さんのいい子なんですから」


「でも俺は! 父さんも母さんも……あんただって……沢山の人に迷惑をかけて、そんなおれがっ!」


「私が許します。例え誰かがあなたの事を責めても、例え多くの人があなたを許さなくても、私はあなたを許します。あなたの味方で居続けます、あなたの側から離れて行ったりしない例え何があっても、だから――だからあなたはもっと甘えたっていいんです」


 お姫様の声が潤む、いっぱいの涙が彼女の瞳を揺らす。


 何でここでお姫様まで泣くのか俺にはさっぱり分からない、でも何故だかその涙は元々俺のものだった様な気がした。


 俺が今まで流せなかった涙をお姫様が代わりに流してくれている、そう思うと息が苦しくなった。


「だからどうか守護竜様もご自分のことを許してあげて、自分の事を責めないで。あなたは許されてもいいんです」


「そっか……そっ…か……」


 呼吸はそのうち嗚咽になって、気が付けば俺は堰を切ったようにお姫様の胸の中で泣きじゃくっていた。


 母親に抱かれる赤ん坊のように泣く俺の頭を、お姫様はただ優しく撫で続ける。


 その行為は今まで鬱陶しくてたまらなかった筈なのに今はその手を払いのける事が俺にはできなかった。

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