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第18話 はっきり言って負ける気がしねぇ

 大勢の奴を相手に喧嘩するときのコツは大勢を相手にしない事だ。


 なるべく背後には壁があるように立ち回り可能な限り死角をなくして向かってくるやつら全員を視界に入れ、攻撃をするときは確実に急所を狙う、顎、鳩尾、目つぶし、金的、相手の方が数が多い以上一人に何発も打っている暇はないとにかく一撃で相手を戦闘不能ないし怯ませて一度に相手する頭数を減らす。


 それが元居た世界で俺が編み出した必勝法だ、もっとも今の俺なら仮に百人が相手だろうが相手にはならないだろうが。


 剣を翳して突っ込んできた男のどてっぱらに魔導で作った空気の塊をたたき込むと男はそれだけで悶絶してて床に転がった。


 続けざま飛び込んできた奴は重力操作で浮かび上がらせ身動きが取れなくなったところに体当たりを食らわせて吹っ飛ばし、同時に襲い掛かろうと駆け寄ってきた連中は炎の壁でけん制し隆起させた城の石床でアッパーカットよろしく顎を突き上げる。


 魔素マナを自由自在に操り手足の様に動かせる感覚、思い描いたことがなんでも出来そうな圧倒的な万能感が体に満ちる。賊は二十人近くの数がいたがどいつもこいつもまともに近づくことさえできず床に転がっていく、正に無双、はっきり言って負ける気がしねぇ。


 あっと言う間にその場に立っている奴は俺とお姫様以外誰もいなくなり、襲ってきた連中はどいつもこいつもうめき声をあげて這いつくばっている。


「おらおら! もう終わりかよこれからだってのに、もう少し遊ばせろよ!」


 久々の喧嘩に血が滾りその勢いのまま俺が挑発すると賊の一人がフラフラとした足取り立ち上がる。


「いいねその調子だ、根性見せろ!」


 立ち上がったそいつにもう一発魔導をお見舞いしてやろうとしたその時だ、突然お姫様が俺を後ろから抱き留めた。


「もう十分で御座います守護竜様! 後は城の兵に任せましょう」


「あぁ? 軟派なこと言ってんじゃねえよ、いいから離せ! こんな連中相手にもなんねぇよ」


「いけません、怪我をなされたらどうするのですか!」


 襲いかかる男共をはじき飛ばしながら、駄々を捏ねる子供の様なことを言いだしたお姫様に苛立ちが募る。


「危なくなんてねぇっつってんだろうが、馬鹿にしてんのか、テメェ!」


「ダメですっ!」


「このッ――」


 その時、ブチリと俺の中で何かが切れる。


「いい加減にしやがれ!」


 俺は苛立ちに任せて怒声を上げながら、お姫様を蹴り飛ばして彼女をふりほどいた。


 ようやく拘束から逃れてから、お姫様を振り返り、そこでハッとした。


 突き飛ばされたお姫様が、尻餅をつくように倒れていた。


 蹴られた衝撃のせいか苦悶の表情で咳き込み、目にうっすらと涙を浮かべている彼女と目が合う。


 そんなお姫様の姿がいつかの記憶と重なる。


 辛そうに倒れる母さんと、それに寄り添う父さん。


 俺の事を見る二人の目はまるで――。


 つららを背中に差し込まれた様な感覚が走り、さっきまで怒りと興奮で登っていた血がスッと引いていく。


「――ッ!」


 何か言葉が口から零れそうになったが、なんて言おうとしていたのか自分でも分からなかった。


 ただ倒れるお姫様に男達が向かっていくのが見えて我に返る。


 俺は咄嗟にお姫様との間に入り、魔導で男達を吹き飛ばす。


 壁に叩きつけられたそいつらは苦しげにうめき声を上げながら床に転がり、それでこの場に立っている奴はいなくなった。


 残されたのは俺とお姫様の二人だけ。


 ……何を言えばいいのか分からない。


 言いたいことはいくらでもあるはずなのに、なぜだか上手く声が出ない。


 クソッ! 何だってんだよ。


 らしくもなくうだうだしている自分に苛立ちながら、とにかく何でもいいから声を出そうとしたその時。

 

「あーあ、なっさけなぁい」


 突然癇に障る小生意気な声が割って入る。


「せっかくリルリが魔導で気配を消して上げたのに、あっさり見つかって返り討ちとか、ホント使えないざこばっかり」


 カンに障るその声がする方に視線を向けると、さっきの男達と同じように空間からしみ出す様に人影が現れる。


 そいつも顔を隠していたが、さっきまでの男共とは違って細身で小柄、話す声はあどけなく明らかにガキのそれだった。


「それにしても噂の守護竜ってのがどんなのかと思って見てたけど、なんというか……ぷっ」


 いいながらそいつは無遠慮に俺の事を見たかと思うと、急に吹き出し人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべて。


「ちっさ」


「ああん!?」


 明らかに馬鹿にしたニュアンスが籠められた一言に堪忍袋の緒が切れる。


 俺は周りの男共にしてやった様に魔導で作った空気の塊をそいつに叩きつけた。


 大の男が一発で昏倒するような一撃だ、ガキなんてひとたまりもない。


 そのはずだった。


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