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第17話 ぶっちゃけやってることはお姫様のヒモだ

 早朝、城の裏手に数台の荷馬車がやってくる。


 城の兵士が荷馬車の騎手から提出された書状を確認し積み荷がフェルム領主クロイゲンからの物である事を確認した。


 先代国王が亡くなって以降、女王の気を引くためなのかクロイゲンからの献上品はしょっちゅうで、兵士達も手慣れた様子で手続きを進めていく。


 三台の馬車に積まれているのは大な木樽が合わせて二十数個、その内の一つを兵士が開けて見せるように指示を出し、騎手は馬車から降りると言われたとおり荷物の一つを開封して見せ、中に入っているのが葡萄酒だと説明した。


 ファルム領は酒造業が盛んであり、こうして葡萄酒が献上品として送られることはよくある。


 中身を確認し問題なしと判断した兵士は城の裏口を開けて騎手と馬車を城の中へと向かい入れると、受け入れの手続きをして荷物を城の保管庫へ搬入する。


 全ての手続きと搬入を終えて城の兵士達が去り静まりかえる保管庫の中で、突如葡萄酒が入っているはずの木樽の蓋が内側から開け放たれれた。


「っくあぁー! 息が詰まるかと思ったぜ」


「あいつら雑に運びやがって、もう少し丁寧に扱えねぇのか」


 口々に文句をたれながら、男達が木樽の中から這い出してくる、その数はざっと十一。


 薄汚れ荒んだ服を身に着けた男達は皆、布を顔に巻き人相がばれないようにしていたがその粗暴な言動までは隠しきることはできていない。


「にしても、まさかこうもあっさり侵入できちまうなんてなぁ」


「まったくだ。やっぱり領主様のお墨付きがあると違うねぇ」


 下卑た口調であざ笑う男共、しかしその会話を可愛らしい声が遮った


「騒いでんじゃないわよ、ざぁこ」


 可愛らしくも挑発的なその一言に、ざわざわと騒いでいた男達がしんと静まりかえる。


「まだ城の中に入っただけでしょ、浮かれるのはやることやった後にしてくんない?」


 その人物は周りの男達と同じように顔を布で隠していたが、その体躯は細身で小さく、むくつけき男達の中で彼女だけが異質だった。


 しかしそんな彼女の言葉に周りの男共は多少不服そうにしていても、大人しく言うことを聞き逆らおうとする物はいない。


「まっていなさい、いま会いに言って上げるから。お・ひ・め・さ・ま」


 布で隠された口元にはニヤリと凶悪な笑みが浮かんでいた。


           ✣


「起きてください守護竜様、朝ごはんの準備ができておりますよ」


 そう言いながらお姫様が手慣れた手つきで俺を抱き上げると、朝食の用意をしてある食堂へと向かって歩き始める。


 俺がこの世界に転生してだいたい半月くらいだろうか? ここでの生活もそろそろ慣れてきた。


 お姫様は変わらず俺にべったりで隙あらば世話を焼いて甘やかそうとしてうざったいが我慢できないほどじゃない、適当に受け流しつつ毎日を過ごしている。


 お姫様曰く守護竜の役割というのは二つあって、一つは守り神として外敵から国を守ると同時に他国からの侵略に対する抑止力、もう一つは世界中に溢れる魔素(マナ)その流れを正常に維持するための管理者(バランサー)


 この二つが守護竜である俺の仕事であるそうだがじゃあ実際に普段何をしているのかと言えば、正直に言って何もしちゃいない。


 他国への抑止力にせよ、魔素(マナ)の管理にせよ基本的に守護竜が存在するだけで事足りるらしく俺自身が何かするということはない。


 つまりこの世界に存在することそのものが守護竜の役目であり使命なのだ――とっそれっぽく言っちゃあみたがぶっちゃけやってることはお姫様のヒモだ。


 一応国の主である女王の護衛も仕事の内ではあるのと、俺がそばにいないと心配で仕事が手につかないとかぬかすんで基本的にお姫様の傍に居るがそれ以外はやることがない。


 楽なのはいいが正直いい加減飽きが回ってきた、ある程度この世界の事も分かってきたしそろそろこの城からおさらばする頃合いだろうか?


 そんなことを考えながらお姫様に抱っこされたままいつもの様に食堂へと向かっていたその時だ。


「ッ! ……止まれ」


 鋭い俺の声にお姫様がその足を止める。


「どうかなさったのですか、守護竜様?」


「降ろせ」


 問いを無視して続けてそう言うとお姫様は指示の意味が分からず困惑したような顔を浮かべるが、俺はそんなこと構わずもう一度同じ言葉を口にする。


「いいから、降ろせ!」


 ただ事ではない様子からさすがに何かを感じ取ったのか、お姫様はゆっくりと俺を床に降ろした。


 お姫様から解放された俺は廊下の先にある柱へと視線を向ける。


 まるで空気が肌に刺さって、ピリピリするような気配を柱の裏から感じる。


 この気配には覚えがある。前に城下町でお姫様を襲ったやつからも同じものを感じた。


 これは、敵意だ。


 俺たちに害を加え傷つけようとする意志の気配、そんなものを俺はこの体になってからはっきりと肌で感じることが出来るようになっていた。


 気配のする柱の裏へと軽く意識を集中させると室内であるはずの城内に激しい烈風が吹き荒ぶ。


 俺が魔導で作り出した風が柱の裏に隠れた敵意の主を引きずり出すと、男の悲鳴が辺りに響くが奇妙な事にそこには誰の姿もない。


 いや、違う。よく見れば透明だが人方の何かが廊下にうごめいている。


 空間にしみ出してくるように、透明な何かの姿が徐々に現れ、やがて男の姿がそこにはっきりと浮かび上がる。


 男は布を巻いて顔を隠していたがその物々しい雰囲気で城の人間じゃないことはすぐに分かる。


「なんだてめぇ、どっから入った?」


 俺がそう聞くと男は苛立たしげな舌打ちと共に腰に差した短剣を抜き放ち、その切っ先を俺たちへと向けた。


「うるりやぁ!」


 襲いかかる男の怒声に合わせて、俺は飛行魔導の要領でそのどてっぱらめがけて体当たりをかます。


 すると男は拍子抜けするほどあっさり吹き飛び壁に激突すると、張り合いのねぇ事にその一発で伸びたのか床に転がって動かなくなる。


 うめき声が聞こえるから多分死んじゃいないと思うが、いったいこいつはなんだったのか?


 そんなことを考えていたその時、気が付く。


 さっきと同じ気配。それが辺りに何人もいる。


 最早隠れてても無駄だと悟ったのか、男達は姿を現しながら各々が武器を構える。


 その数はざっと数えて十人程度。


 端から見れば危機的な状況。だがそんな中で俺は高揚感と懐かしさを感じていた。


 向こうにいた頃、不良やチンピラ連中にこうやって囲まれるのはしょっちゅうだった。


「こいよッ! こちとらちょうど暇を持て余してたところだ、全員纏めてぶちのめして誰に喧嘩売ったのか分からせてやんよ!」


 久々の荒事に高ぶりを感じながら俺はその場で身構え戦闘態勢をとった。

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