第89話 封印干渉
轟音――それは、突如として地下施設全体に響き渡った。
「爆圧!? 施設外からの侵入だ!」
クロノスの警告と同時に、天井部の結界が軋み始める。
霊脈が震え、冷却区画の気温がわずかに上昇した。
「……予想より早いな。奴ら、ここを“知ってる”」
アサクラ・エンジが顔をしかめた。
「誰だ?」
「恐らくは……“第四の勢力”でも、橘重工でもない。
財閥とは別軸で動いていた、存在不明の外部因子――」
ゴオオオッ!
霊障と共に、強制開扉された搬入ルートから現れたのは、黒衣の集団。
中央に立つ一人の男だけが仮面をつけておらず、灰銀の髪をなびかせていた。
「我々は《アカシャの指》。アリシアを、回収させてもらう」
「……アカシャの指?」
美月が息を呑む。
「記録照合中。かつて異能破壊活動を行っていた秘密宗教勢力。“観測されざる因果”への信仰を標榜」
クロノスの声が緊迫を帯びる。
「彼女は我々の“聖核”。その存在こそが、次なる“世界書き換え”の鍵」
「そんな勝手な理屈で連れていかせるかよ!」
隼人が前に出て、死霊化した剣を展開する。
だがその瞬間、アリシアの霊子封印シェルが、わずかに共振した。
「な……霊力が……揺れてる?」
「内部から反応……いや、共鳴している!?」
優が振り返ると、眠るアリシアの背後に浮かぶ霊結晶がかすかに“羽ばたく”ように動いた。
「目覚めかけてる……?」
(違う、これは……“呼ばれている”)
優の胸の奥がざわつく。
声が聞こえた気がした。懐かしさと切なさが交じるような、
かつて何かを誓い、そして失ったような、そんな響き。
「……優、下がれ。こいつらは俺が抑える!」
隼人が一歩踏み出し、瞬間的に死霊技を展開。
「《黒域・断層界》!」
地面が砕け、死霊の影が侵入者たちの足元を裂く。
しかし、教団の男はその中からただひとり、薄く笑った。
「さすがは“死霊使い”の一族……だが、“観測されざる神意”の前では無力だ」
そのとき、封印シェルに亀裂が入った。
「……来るぞ。ここに、何かが近づいている」
優は背後に目を向けた。
アリシアはまだ眠っている。
だが、その封印が揺らぐときは、すぐそこに迫っていた。




